以前私が働いていた仕事場で、ある先輩が問わず語りにこう語ってくれました。
「知ってるか。オレはむかし中華料理屋で修行してたことがあんだよ。その時は本気で料理人になろうと思ってたんだ。お前、中国に行くんだってな。中国にはなあ、四大料理っつうのがあってな。北京料理と上海料理と広東料理と四川料理と、、、」
そして私は中国へ来てから知ってしまったのです。
日本の「中国四大料理」が中国には存在していないということを。
中国ではもっぱら「八大料理」
中国では一般的に、「中国八大料理」という8つの分け方をします。日本での4つの分け方よりも多いですね。
中国語では「八大菜系」というので、正確に訳すなら「八大料理系列」といったところでしょうか。
こちらの地図に、その8種類の料理系列をまとめてみました。
順番に簡単に紹介していきましょう。
鲁菜:山東省の料理です。北京や東北などの料理もここに含まれるそうです。つまり、中国北方の料理は魯菜として一緒くたにまとめてられていることになります。魯菜の味付けはしょっぱめで(寒冷地域だとよくそうなる)、使用する油も多めです。主食は米よりも、小麦から作られたマントウや餅(日本の餅と違う)や麺などをよく食べます。
川菜:言わずと知れた四川省の料理です。辛いことで有名ですが、ただ単純に辛さを追求しているワケではなく、「麻」(ピリピリ)や「辣」(ヒリヒリ)などの刺激や、豆板醤に代表される調味料の深い旨みを組み合わせた全体的な味のバランスを重視しています。強力な火力で味わいを一気に食材に染み込ませます。うまい四川料理屋は厨房から聞こえてくる火の音がジェット機のようです。四川料理はいつでもどこでもガツンと食欲を刺激してくれる料理です。
粤菜:いわゆる広東料理です。広州や香港やマカオなどが含まれます。甘めの味付けが特徴だと言われています。点心に代表されるような小盛りのミニサイズな料理が多いですね。漢方的な考え方が料理の作り方にしっかりと影響しています。そして広東料理と言って何よりも有名なのが、「なんでも食べる」ということでしょう。粵菜はいろいろなゲテモノ料理(私たちからすれば)を味わうことができます。
蘇菜:蘇州や揚州を中心とした江蘇省の料理です。上海の北側に位置する地域です。「淮揚料理」と呼ばれることもあります。旬の食材や野菜を多く使うこと、色や盛り付けにこだわるのが特徴だそうです。 「刀さばき」による食材の装飾に素晴らしい技術が継承されています。
閩菜:福建省の料理です。実際は福建省の中でも地域によってかなり違いがあるのですが、ここでは一緒くたにされています。味付けは全体的にかなり薄味、あっさりで、日本人ですら、これ薄すぎるんじゃない?と思うくらい薄いです。汁物を非常に好みます。福建人と一緒に食事をすると、十中八九スープを頼みたがります。以前オール福建人+私で食事をした際、11の料理のうち、スープが6あったのには驚愕でした。沖縄料理とは驚くほど共通点が多いです。ヤギ料理を重視するとか、ソーキそばに似た麺があったり、コーレーグースに豆腐ようも福建では食べられています。福建料理は台湾料理にも影響を与えています。日本でも有名になり始めた沙県小吃は福建省の北寄りの地域の料理です。
浙菜:浙江省の料理です。上海の南側に位置しています。日本本土の味付けに一番近い料理かもしれません。素材本来の味を引き出そうとするような魚介類の食べ方も、日本と似ているかもしれません。唐辛子などの刺激物を一切受け付けない土地柄です。ですので、浙江省出身の人たちの中には、辛いものが全くダメという人がたくさんいます。
湘菜:湖南省の料理です。湖南料理の辛さの追求に比べたら、四川料理など足元にも及びません。しかし、湖南料理もただ辛いだけではなくて、「香辣」、つまりは、唐辛子の香りを最大限に引き出すことを重視しています(本当にただただ辛いだけなのは江西省の料理らしい)。唐辛子の赤をはじめとする食材の鮮やかな色が目を喜ばせます。私も湖南料理が大好きです。
徽菜:安徽省南部の料理です。蒸す、焼く、燻すなど、火の扱い方にこだわった料理だそうですが、私はまだ行ったことがないため、どんな料理だかいまいちピンときません。
ちなみにこちらが日本で言われている「中国四大料理」になります。(ちなみに韓国でも日本と同じ分け方をするそう)
いったいどこからこういう分け方が出てきたんでしょうか。
調べて行くと、興味深いことに、清朝初期の中国でも「四大料理」という言い方が存在していたことがわかりました。どうやらこの四大料理に、後の時代になって4つの料理が付け加えられて8大料理になったみたいです。
まあこういう「何大ナントカ」という言い方自体、かなり恣意的であり、いくつもの分け方が存在しうるのも当然だと思います。
正直なところ、八大料理があったとしても四大料理があったとしても、中国で実際に生活している中でそこまで意識するようなものではありません。
八大料理の中にも、普段あまり見かけないものが入っていたり、どこに行ってもしょっちゅう見かけるような、もっと影響力のありそうな料理がはじかれてしまっている、というのが正直な感想です。
そこで私、「現代中国のどこの都市へ行っても口にすることができる料理」を基準に、勝手に中国八大料理を選定してみました。
蘭州ラーメン(をはじめとする中国イスラム料理。拉面,大盘鸡,羊肉串等)
沙県小吃(をはじめとする福建系料理。拌面,馄饨,卤味等)
東北料理(饺子,铁锅炖,锅包肉,猪肉酸菜顿粉条!等)
四川料理(火锅,毛血旺,各种炒菜,宫保鸡丁,回锅肉等)
重慶料理(烤鱼!重庆火锅、小面,干锅)
広東料理(点心,双皮奶,肠粉~,各种粥)
陝西料理(肉夹馍!凉皮!臊子面,泡馍)
この8つの料理だったら、中国でどこに行っても看板を目にすることができます。
中国新8大料理誕生!
追記
最近、1985年に放送された『中国の食文化』というドキュメンタリー番組があることを知りました。キッコーマンと岩波映画製作所が作成したドキュメンタリーです。
中国でも非常に評価が高いドキュメンタリーだということで耳に入ってきたのですが、どうやら日本の「四大料理」はこの番組の影響されたものなのでしょうか。
というのも、番組がちょうど「北京料理」「広州料理」「江南料理」「四川料理」の4集に分けて放送されていて、現在いわれている「四大料理」の分布と一致するからです。
相当に手の込んだドキュメンタリーみたいです。各地の最高級のレストランをまわっては、芸術的な料理を映像に収めています。
しかも数ヶ月の取材を元にして、『中国料理大全』という本も出版されています。全5巻で、上の四大料理と「総合調理編」に分けられています。