しぼりたてチャイナ

何かとディープな中国の知られざる魅力を、無限に生しぼりしていくブログです

考古学の奇跡!湖南省長沙で発掘された2000年前の完全な遺体 馬王堆漢墓の湿ったミイラ

 

 

1971年、時は文化大革命の真っ最中。

 

おおかたの知識人が迫害、もしくは農村部に追放され、国全体が政治運動に明け暮れていたころのこと。

 

3000年の歴史を誇る湖南省の長沙市郊外では、新しい病院の建設が行われていました。

 

建設現場の地面を掘り進めていくと、突然、異臭のする気体が吹き上がってきます。吹き出した気体は作業員の1人のマッチに引火し、青い炎があがりました。

 

いったいこれは何なのか?ここの地下には何か隠されているのか?さまざまな憶測が飛び交います。

 

もしかするとこれは、古代の墓ではないか?

 

そう思った病院の建設者たちは、急いで湖南省博物館に連絡を入れます。

 

長沙の周辺では当時、漢代の墓だけに限っても2000座もの古墓が発掘されていました。しかしそのうちの十中八九は、数千年の歴史を経るなかですでに何者かによって盗掘されてしまった後のものでした。

 

地面から気体が吹き上がってきたということは、この墓がまだ盗掘されていないという証拠。そこで博物館は、中央政府の国務院に正式な発掘を申請します。

 

いったい、誰の墓なのか?


発掘隊は、遺跡とみられる丘を一段一段と掘り進めていきます。

 

発掘の途中で、なんと盗掘に使用されたとみられるトンネルが発見されてしまいました。一同に緊張が走ります。やっぱりここも、盗掘されてしまったあとなのか?

 

トンネルの断面が円形であることから、元の時代以前に掘られた盗掘穴ではないかと推測されました。

 

しかしこの盗掘穴は、地表から17メートルの深さまで掘り進めたところで突然消失します。掘っても掘っても何も出てこないため、当時の盗掘者はここがニセの墓であると判断したのではないか、と言われています。

 

中国というのは歴史上、盗掘者が非常に多い場所なので、墓を作る側もそれを見越してフェイクの墓を作ったりしたんですね。

 

f:id:xccg:20200304071207p:plain

トンネルが消失してからさらに掘り進めること40cm・・・、土の色が茶色から白色に急変します。「白膏泥」と呼ばれる、水を通さない、気密性の高い土が、厚さ1メートルにわたって敷きつめられていました。

 

「白膏泥」に続いて現れたのは、黒色の木炭の層。ここまでしっかりと埋葬されているのなら、この先にはとんでもない価値の文物が眠っているはずです。

 

木炭の層を取り除くと、黄色いムシロが出てきました。このムシロは外気に触れた瞬間、黒く変色してしまいます。

 

ムシロを取り除くと、ついに棺桶を包む木室「棺椁」が姿を現しました。 いまさっき切り出してきたばかりのような新鮮な木材でできた、6.72m×4.88m×2.8mの巨大なものでした。

 

フタを開くと、そこには数千件の埋葬品が。

 

漆器、印章、武器、楽器、シルクの織物、布に書かれた文書「帛书」などが、次々に取り出されていきます。

 

しかし、埋葬されているのがどこの誰なのかをはっきりと示す文物は見つかりません。

 

f:id:xccg:20200304090555p:plain

最後にようやく、墓の主人を収めた棺桶が日の目を浴びます。

 

なんと棺桶だけで三層もある。マトリョーシカみたいです。

 

中の遺体はどんな状態なのか?

 

なにせとりわけ湿気の多い長沙のことです。専門家は、骨のカスでも残っていればいいほうだ、くらいにしか考えていなかったそうです。

 

この地域の気候から言えば、完全な屍体が出土するのは不可能に近いことでした。

 

常識を覆す、ハイレベルな防腐処置

 

フタを開いてまずはじめに目に飛び込んできたのは、棺桶を満たす紅茶のような液体でした。

 

瓶にサンプルをつめて、この異臭を放つ液体を取り除くと、2000年前の絹織物が、何者かを包み込んでいるのが見えてきました。

 

動物質であるシルクがこのように完全な形で保存されているのは大変珍しいことでした。しかも液体に浸っていたんですから。

 

f:id:xccg:20200304092846p:plain

見た目に反して実際には腐敗が進んでいたらしく、生地は豆腐のように切れやすかったそうです。

 

シルクを切り開いて、はがし取っていきます。

 

そして、ついにその時がやってきます。

 

骨でも、腐敗体でもなくて、 遺体が、そのまんま出てきたんです。

 

女性の遺体でした。

 

皮膚にはまだ弾力が残されていて、指でつつくと跳ねかえってくるほど。

 

髪の毛、まつげ、鼻毛から、左の鼓膜、指紋まで残されています。

 

研究のため、医者による解剖が始まります。腹部を切り開くと、内臓までもが完璧な形で保存されていました。医者が注射した防腐剤が、全身の毛細血管を通ってすみずみまで行きわたったほどに保存状態がよかったと言います。(このときの解剖の動画がYoutubeに上がっています。最後にリンクを貼っておきましたので、怖くない方は見てみてください)

 

遺体は内臓から腐敗し始めるのが普通ではないでしょうか?だからミイラを作るときにも、内臓は取り除くものです。乾燥地であってもそうなのですから、湿気の多い湖南省でここまでの遺体が発掘されるというのがいかに常識破りなことか。

 

この2000年ぶりに外気に触れた女性は、身長160cm、体重80kg、推定死亡年齢は50歳。

 

医者の診断によると、動脈硬化、胆結石、各種寄生虫の卵が発見されるなど、病気のカタマリのような状態でした。直腸からはついでに138粒のウリの種が見つかっています。

 

医学チームと並行して、物理化学チームも、この驚くべき腐敗防止の技術について研究を進めました。しかし、棺桶を満たしていた紅茶のような液体が意図的に入れられた薬品なのか?それとも腐敗、発酵の過程で生成された液体が、単に偶然の防腐作用をもたらしただけなのか、現在に至るまで決定的な結論は出ていないようです。

 

考古学チームは、出土した埋葬品と歴史書のすり合わせから、遺体の女性が前漢長沙国丞相利蒼の妻、辛追さんであることを突き止めました。

 

彼女に会うには

 

この遺跡は現在、「馬王堆漢墓」と呼ばれています。

 

当時考古学界を震撼させたこの発見は、1972年8月8日の朝日新聞でも「中国・長沙古墳カラー特集」ということで大々的に報道されていたようです。

 

辛追さんの遺体は、さらなる防腐処理をほどこされ、現在は長沙市にある湖南省博物館に展示されています。入館無料です。掘り返されたあげく全裸で見せ物にされてしまうなんてたまったもんじゃないですね。

 

Youtubeの動画です: 

https://www.youtube.com/watch?v=j2v2Vf8f6_4

(9分45秒くらいから解剖が始まります。少し生なましいので、怖い人は見ないほうがいいかも)