世界がこれだけ広ければ中国もまた広し。
中国各地にはまだまだ世の中に知られていないような面白い文化習慣がそこらじゅうにザクザク眠っています。
今回はその中でも特に私の興味をそそる「牛瘪」(ニウビエ)という、牛のウンコ鍋についてご紹介します!
「牛瘪」は、中国西南部の貴州省榕江県というところの名物です。榕江県は、省会都市である貴陽市から、南東に200kmほど行ったところにある小さな街です。
2014年に高鉄が開通しているので、貴陽市から一時間でアクセスできます。(高鉄がなかったら時代にはバスに五時間ゆられなければたどり着けない)
さて、今回は「牛瘪」を食べるためだけに榕江県へ来たのではなくて、侗族(ドン族)の村を見学しに行くのがメインでした。
榕江駅へ着いてから、先に村へ向かうためのバスに乗り込みます。
駅を出発してから10分ほどで、忠誠鎮という場所を通り過ぎました。
道端に延々と続くのぼり旗には、「牛瘪 あなたと食べてまわる忠誠鎮」と書いてあります。
どうやらこの一帯が牛瘪産業の中心地のようです。
通りにはたくさん「牛瘪」の看板が。
さて、この日はバスでここを通過するだけでした。翌日、山奥の村で一泊したあと、私はまた榕江県のバスターミナルまで戻りました。
バスターミナルに着いてからしばらく歩いて探してみると、路地裏に2軒「牛瘪」のお店を見つけたので、右側のお店に入ります。しかし、そもそも牛瘪という料理がどういう形式で注文するものなのか知らないことにようやく気がつきます。メニューを見てみると値段が高めなので、どうやら一人で食べるには適した量ではないことが伺えます。
そうしているうちに、一人のお客さんが入ってきて、「牛瘪のもと」を持ち帰りで注文していきました。
家に持って帰って食べるのか。もしかしてお店で一人で牛瘪を食べるのって変なのかな?ああどうしよう。
私はそのときちょうど恥ずかしがり屋モードだったので、なんとなく気が引けてしまい、その店を黙って後にします。
そして続けて隣にあったお店に入ります。お昼ご飯のピーク時間をすぎていたため、中にお客さんはおらず、4人の女性店員がご飯を食べているだけでした。
「牛瘪ある?」
「あるよ」
「牛瘪ってまだ食べたことないんだけど、一人で食べきれるかな」
「んー、1人だとちょっと多いかもしれない。食べて行く? 鍋が45元で、お米がプラス4元で49元」
「そんなにたくさん食べなくてもいいから、量を半分とかにして、半額にできたりしないかな?」
「できないできない。45元が一番安いやつ。こっちも牛瘪は儲からないからね。サービスで売ってるようなもんだから」
「うーん。。。わかった、じゃあ、その45元のやつで」
裏の厨房で炒め物の音がしばらく聞こえた後、いよいよ「牛瘪」お披露目のときがやってきました。
こちらです。じゃじゃん。
わお。
すごい量の牛肉だ。食べきれるかな。
店員さんがご飯(4人前分くらい)と、後から鍋に投入する野菜を持ってきてくれました。
いや一人だって言うとるがな。というか見たら一人だってわかるだろ。
ガスコンロの火を点火して戦闘開始。
ずずっ。ずずずっ。
ウンウン。
牛のスーパー濃厚な香りがする。
ここで「牛瘪」がどんな料理なのか、しっかり説明したいと思います。「牛瘪」とは正確に言うなら、牛のウンコ鍋というよりも、牛の半ウンコ鍋です(やっぱりウンコ)
作り方をネットで調べてみました。
牛を屠る直前に、何種類もの漢方薬(当帰や朝鮮人参、葛根、柴胡、金蕎麦など)を与えます。牛さんに30分ほどの消化時間をとってもらった後、牛を屠ります。牛さんの胃の中で半消化の状態になった薬草を取り出して、強火で30分煮込みます。その後ざるで何度か漉して草のカスを取り除きます。その後、クスノキのまな板の上で牛肉を切り分け、しょうがとともに強火で炒めます(爆炒)。肉に火が通ったら、先ほどの半消化薬草の煮込み汁を加えて、さらに調味料や香料で味を整えれば、出来上がり!
(参考:百度百科)
「牛瘪」は、貴州省の侗(ドン)族や苗(ミャオ)族がお客さんをもてなす時などに食べられる、非常に格の高い料理だそうです。
鍋の「もと」をお持ち帰りで持って帰って、家でセルフ鍋することも一般的みたいだそうです。
百度百科にはこのほかにも、
「この料理が健康にいいかどうかについては医学的な見地から説明されたことがない。というのも、専門家は誰もこの料理の存在を知らないからである」
などと書いてあります。誰も知らないw
もちろん私もここへ来るまでは「牛瘪」の存在など聞いたことがありませんでした。
さて、私は一人、鍋との戦いを続けています。
このうんこおつゆ、、、
香ばしい牛の香りが、個人的には非常に美味しいと思うのだが。
肉の香りというのはそもそも動物そのものの香りであって、牛の香りの薄いものが牛肉、牛の香りの強いものがウンコだと私は思うことにしました。
なのでこの「牛瘪」はちょうどその中間地帯の、匂いが強すぎず、かといって決して弱すぎない絶妙な濃さの牛の味。
香ばしさと臭さとのハザマ、匂いと臭いのハザマをギリギリに攻めていった、相当リスクのある味付けではないでしょうか。
牛の濃厚な香りといろいろな薬草の芳香が鼻を突き抜け、そして唐辛子も入っているために、結構辛い。スパイシーな味わいに加えてしょっぱめの味付けになっているため、想像もしなかった勢いでご飯がすすみます。
そして超濃厚なおつゆの中には、膨大な量の新鮮ぶりぶりの牛肉がたっぷり浸っています。
ハーブ類は固くて噛み切れないのでペっペ、ペっペとテーブルに出します。ときおり野菜を鍋に入れ、肉をつまみ、ご飯をかっこみ、顎を酷使し続けること一時間超。ようやくあらかた食べきることに成功。
お腹いっぱいだ。顎が疲れた。
きっと2〜3人で食べるのがちょうどいい量だったのでしょう。
個人的には、ヘビーな味わいが今後病みつきになってしまうかもしれないと思いました。
私はいい香りだと感じましたが、人によってはもしかするとただのウンコ味にしか思えないのかもしれません。
もし貴州省へ行くことがあって、うんこ鍋に興味のある方がいたら、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。
*ネットで調べてみると、ここ榕江県以外にも、周辺の从江県,凯里市,黎平県などの街にもお店があるようですよ。