しぼりたてチャイナ

何かとディープな中国の知られざる魅力を、無限に生しぼりしていくブログです

そもそも中華料理って辛いの?問題

 

前回の記事では唐辛子が中国へと伝わってきた歴史についてご紹介しました。

 

意外なことに、唐辛子が中国の一部地域で食べられ始めたのが今からおよそ300年前で、その周辺地域に広がり始めたのが約200年前、中国の広範囲に広まり始めたのが今からたったの100年前、ということで、辛い辛い中華料理の歴史って、実は拍子抜けするほど新しいものなんですねー、ということでした。

 

それがあっという間に中国各地に普及してしまったのですから、唐辛子側からしてみれば、種の拡散ができたということで、してやったりのご満悦なのではないでしょうか。

 

しかしこの唐辛子、果たして秦の始皇帝共産党のように中国全土を統一できているのかというと、これについてはとっても不思議な疑問が残るのです。

 

なぜなら、中国には現在でも辛いものを全く受け付けない地域がまだまだたくさんあるからです。

 

どうしてこういうことが起こってしまうのでしょうか?

 

今回も曹雨先生の著書『中国食辣史』を参考にしながら、不思議な不思議な唐辛子と中華料理の関係について、お話していきたいと思います。

 

辛いものを受け付けない地域(禁辣区)

辛いものを全く受け付けない地域があるということを先ほど言いましたが、これは中国でも割に有名な話だと思います。

 

場所でいうと、主に広東省福建省浙江省上海市江蘇省南部の人々が唐辛子をほとんど使用しないと言われています。辛さの好みにはもちろん個人差もありますが、家庭内で食べられている地元の料理に限っていえばこういう結果になるでしょう。

 

以上の地域の出身の人々は、普段からほとんど辛いものを食べないためなのか、唐辛子が苦手な人の割合が非常に多い。私の勝手な印象では、特に浙江省の友人がそろいもそろって辛いものが食べられない。少しの辛みも全くダメ、という浙江人がたくさんいます。

 

しかし、前回にもお話した通り、唐辛子が歴史上最初に中国の文献に登場するのが、まさにその浙江省杭州なのです。

 

『中国食辣史』の著者が推測するには、おそらく当時大きな貿易港であった浙江省の寧波から輸入された唐辛子が、やがて長江をゆっくり遡って、中国各地に広まっていったのではないか、ということなのですが、その浙江省が現在では唐辛子フリーエリアになっているというのは、なかなかのミステリーなんじゃないかと思います。

 

ここで、私が作成した荒っぽい地図をご覧ください。

どどん。

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赤い部分は地元の料理で日常的に唐辛子を使用する地域を表しています。そして南部の特に色の濃い地域は、辛い料理を特に愛する地域になります。省でいうと雲南省四川省重慶市貴州省湖南省江西省が濃いレッドゾーンになっています。

 

(友達に聞いてまわった話と、ネットで調べた情報と、自分で食べまわった結果を元に作成しています。海南島と広西自治区あたりの詳しい情報はわからないです)

 

地図を見ると一目瞭然ですが、先ほど話した唐辛子を受け付けない地区である広東省福建省浙江省上海市江蘇省南部はすべて海岸沿いに位置しているのがわかると思います。

 

これらの地域で食べられている料理は、同じ中華でありながら「全く辛くない中華」になります。福建省東部など、場所によっては和食よりもよっぽど味付けが薄かったりします。

 

ちなみにモンゴルやチベットでもあまり辛いものが食べられません。

 

 

辛いものをこよなく愛する地域(重辣区)はどれくらい辛いのか?

今回は「そもそも中華料理って辛いの?」というテーマですが、上で説明した通り、辛い地域もあれば、辛くない地域もあるので、辛いのか辛くないのかは、一概には言えないことになります。

 

それでは辛いものを愛する地域で食べられる料理というと、やっぱりヘンタイなくらい辛いのでしょうか?

 

『中国食辣史』の著者が面白い分析をしています。

 

世界各国の唐辛子の生産量を調べてみると、ダントツ1位なのはなんとインドで、2位の中国には4倍近い差をつけているそうです。

 

この国別の生産量からその輸出量を差し引いて、さらに輸入量を加算します。こうして全国民の唐辛子の消費量が導き出されます。これをその国の全人口で割ることによって、国民1人あたりの年間の唐辛子消費量が計算できます。

 

こうして出された1人あたりの唐辛子年間消費量を見てみると、インドが約800g、唐辛子原産国のメキシコが約520g、辛い料理で有名なタイが約700gであるそうです。

 

それでは中国はどうかというと、1人あたりの消費量はわずか約580gと算出されています。つまり、中国人はインド人やタイ人ほどには唐辛子を食べているわけではない、ということになります。これはスリランカよりも少ないそうです。意外ですね。

 

しかもこの580gという数字は「中国の全人口の40%である約5億人だけが唐辛子を日常的に食べる」という仮定に基づいて計算しているらしく、もしも全人口14億人が唐辛子を食べる、として計算したとすると、1人あたりの年間消費量は210g程度になってしまうそうです。

 

もちろん、ここで計算しているのは単純な消費量だけであって、唐辛子の品種や、その使い方によっては、料理の辛さの度合いが変わってくるのかもしれません。しかし、真の唐辛子大国はやはりインドなのでしょう。

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私の経験 重慶の場合

でも、四川や重慶の「火鍋」などを食べてみると、やっぱり激辛ですよね。普段からばくばく辛いものを食べているイメージがあります。それでもインドの消費量にかなわないのはどうしてなんでしょうか?

 

少し思い当たるところがあります。

 

私は2016年の春節のとき、重慶の友人宅で10日間ほど居候させていただいたことがあります。まさに激辛で知られる「火鍋発祥の地」ですから、行く前にはいろいろな人から心配されました。「大丈夫?辛いものは苦手じゃない?気をつけてね」と。

 

私も心なしか心配になりながらも、年越しの雰囲気が濃厚に漂う中、重慶の友人宅へお邪魔しに行きました。毎日毎日、数え切れないほどたくさんの親戚の家をまわって食事をしました。しかし、今になってふり返ってみると、あれ?なんだかんだ、全部普通に食えたぞ。

 

親戚の方のお家で食べたものの中で、辛すぎて口に入れられなかったものって、実は1つもなかったのです。唯一辛すぎてギブアップしかけたのが、外のお店で食べた火鍋でした。

 

もしかして、重慶人も別に毎日激辛なものばかり食べているわけではないのではないか?もしかすると、たまに食べる火鍋などの激辛料理が過大にピックアップされて、広く知れ渡ってしまっているのではないか?

 

文化バイアスが少し働いているのかもしれません。

 

そういえば、私が中国でよく聞かれる質問でも、「日本人ってやっぱり毎日寿司食ってるんでしょう?」というのがあります。私はお金持ちではありませんから「そんなことはないんだよ、庶民はたまにしかお寿司食べないんだよ」と教えてあげることにしています。

 

こう考えてみると、何かインパクトのある文化があると、それが外の世界に誇張して伝わってしまう、ということがよくあるのかもしれませんね。

 

そんなことを思いました。

 

 

今回は以上になります。

 

こういう内容、見る人いるんでしょうかね。

 

普段からこういうことばっかり考えているのですが、完全に自言自语なってしまいました。