これまで3回ほど連続して香港デモについて書いてきましたが、今回は香港の一連の動きに対する中国国内での、私の身の回りの反応について書いていきたいと思います。
今回の一連の香港デモ、日本でよく報道される内容では、
- 中国で香港のニュースが流れると国際放送のテレビの画面が真っ暗になった
- 中国国内では厳しく情報規制がされていて、国民は全く知る機会がない
などという事が言われています。
テレビが真っ暗になった
まずはテレビが強制的に遮断されてしまったことについてですが、確かにこれはあまりにも露骨な情報規制がなされた例として、我々の好奇心をくすぐる、非常にニュース性のある出来事です。
しかし中国で暮らしている実感として感じるのですが、中国において、テレビはもはや重要なメディアではありません。日本でもそうですが、若者はスマホというメディアが手元にあるので、テレビをしっかり視聴するということが急速に減ってきています。そして、学生に限っていえば中国の大学はほぼ全寮制であり、寮にテレビがあるなどということはまずありません。誰も買いたがらないだろうし、学校が許さないだろうと思います。もしどうしても見たかったら、スマホやパソコンで見られます。そもそもテレビのチャンネルも内容も限られているので、見たくなる人もほとんどいないでしょう。
学生ではなくて、普段から家にいる年配の方についてはどうでしょうか。確かに、暇つぶしに普段からテレビを見ている人は多いでしょう。中国のテレビは7時や12時になると、CCTVの各チャンネルで自動的に「新闻联播」が流れてきます。トップのニュースはほぼ主席の動向です。国内のニュースが流れた後、最後におまけ程度に国外の事件や事故の映像が流されます。
しかし中国のテレビで見られる国際放送である、NHK国際放送は英語版ですので、中国在住の外国人が視聴しているかもしれませんが、中国国民が見る機会はほぼないだろうと思われます。そして外国人の視聴中にニュースを遮断したとしても、大抵は外の情報にアクセスできるので、あまり意味がありません。
ネット上の規制
さて、ネットで様々な情報収集ができる時代になったとはいえ、中国ではネット上にも規制がかかっています。
北方から侵入してくる遊牧民族から中国を防衛するために作られた万里の長城にちなんで、中国のネット規制はグレートウォール(万里の長城)と呼ばれます。
果たしてサイバー上のグレートウォールは、香港市民の声をも遮断できるのでしょうか。。。
結論からいうと、NOです。
私の身の周りの人(ほぼ学生ですが)は、香港で何が起こっているか、結構普通に知っています。
実のところ、私は今回の反対運動は中国の友人に教えてもらって初めて知りました。
私「今日何してたの?」
友「いま香港デモの中継見おわったところ」
私「ん、香港デモ?」
友「え、知らないの!?」
こんな感じです。
まあ、これだけ国際的にニュースになったのにもかかわらず、すべての国民の情報源を遮断できるとしたらそれはちょっとすごすぎです。
それから中国でもっとも使用されているチャットアプリ、「微信」(wechat)のタイムラインでも、何人かの知り合いが香港について発言していました。
(HK市民は中国の誇りだ)
この子は国外のロックが好きな、ちょっとヒッピーっぽい感じの子です。
(HKを愛している、新疆を愛するのと同じように)
ウイグル族の子です。普段からネット上に残る自分の痕跡に非常に気を使っている彼ですが、これくらいの発言なら大丈夫だと判断したのでしょう。
逆に、当たり前だと言えば当たり前ですが、否定的な見方を表明する友人もいました。
(「明日は台湾だ」一番笑えるのがこの言葉。状況が違うでしょうに。まあどちらもとにかく中国のものはすべて反対、共産党のものはすべて反対。自分たちの民主が素晴らしいものだと本気で思ってる。自分たちの場所をあんなにめちゃめちゃにして、それで民主ってか)
うーーん。
彼は日本語が非常に堪能で、日本のニュース、ドラマ、バラエティ、アイドルを普段からチェックしているような子です。しかも、中国ではほとんど認められていないバイセクシュアルを公開している開放的な彼が発言したこの内容を見たときは、わぁそんな考え方をするんだ、とちょっとびっくりしてしまいました。
後日も彼は香港に対していろいろな意見をアップしていました。
私なんかよりもずっと多様な情報に接している彼の考え方、こういった中国側からの見方も、無視してはいけないのかなと思いました。
ちなみに彼は今回のことを理由に、もともと決まっていた香港旅行を取りやめたそうです。
では、情報源はどこなのか
では、万里のグレートウォールに囲まれた中国で、彼らはどうやって情報を得ているのでしょうか。
私の知る限り、以下いくつかの方法があります。
1、VPN
VPN というものを使えば、グーグルなどの国外のネットにアクセスすることがができます。VPN が具体的にどういう技術なのかここでは詳しく説明しませんが、アプリであることが多いです。趣味や何かの関係で国外のネットを普段から見る人、Youtubeなんかをよく見る人などは VPN の使い方を知っています。中国語では「翻墙」と言います。「壁を飛び越える」という意味です。
これを使えば国外のニュースに触れることができるわけです。
2、消される前に読む
例えば、先ほどお話しした「微信」(wechat)では、「公衆号」という、定期的に文章を送ってくるチャンネルに登録できる機能があります。無数の作家が様々なコンテンツを提供している民間のメディアだと言ってもいいでしょう。
ここでそういう類の文章が発表されたとしても、アップ直後は閲覧可能なのです。
しかし1、2日経つと消去されてしまうことが多いです。
ちなみに上の画面の作家さんの記事はしょっちゅう閲覧禁止になるのですが、現在も相変わらず大胆な文章をアップし続けています。
他には、「微博」(ウェイボー)などでも消去前であれば記事を読むことができるでしょう。
3、そういうコミュニティがある。
「微信」などの SNSで、政治的な話題を議論することを目的にしたグループなどがあるそうです。私も混ぜてもらったのですが、なるほど普段から政治的に「敏感」なニュースを共有し合っています。
友人がデモについて情報を得たのもこういうグループだったということです。
まとめ
私が中国へ来てから3年ほどの間に、他にもいくつか情報規制が発動される事件がありました。おととしの幼稚園セクハラ事件、去年の深圳学生デモ、などです。
暴露されては消されて、暴露されては消されて、の繰り返しです。しかしなぜだか消されたよ、という痕跡と、記事のタイトルは見ることができます。なのでどうやら何かが起こっているらしい、ということは割と知ることができると思います。そこから興味が湧いて自分で調べるかどうかです。
実際には興味が湧かなく、調べたりもしない人が圧倒的多数だと思いますが、一部の人は自分で調べます。
受け身ではまず情報は流れてきません。しかし、情報に対して積極的になった時には、知る手段があるということです。