中国の大学へ入学して間もないころのことでした。
ある日、これから始まる大学生活についてのチュートリアルのような授業があり、そこで先生がこう言いました。
「みんなもう大学生になったんだから、これからは社会の常識を身につけていかなければいけないよ。たとえば時間はきっちり守るとか。。」
うんうん。
まあ日本と似たようなものだな、と思いながらつらつら聞いていると、
「ほかにも、割と見過ごしがちだけど、教授や先生などに電話をする時間帯も注意しなくてはいけないよ。朝出勤したての時間を避けるとか、夕方仕事上がる直前の時間も、何か頼んだりするのにはふさわしくないよね」
ウンウン。
「それからお昼の時間帯も避けたほうがいいね。」
うん?
「昼寝している時に電話で叩き起こされたら誰だってイライラするよね。だから昼の12時から14時過ぎまでの時間帯も極力避けよう。」
ああそうか。
この国ではお互いのお昼寝に配慮しなければいけないんだった。
そうなのです。
中国では一般的に、、というよりも全国民的にお昼寝をします。
日本には存在しない中国特有の風習ですね。(幼稚園では昼寝するかな?)
中国ではみんな朝わりと早起きをするからでしょうか、「午前中頑張って、昼ごはんを食べてからは横になってしっかり休む」、というのが硬い常識として人々の意識の中に染み付いています。
学校や、会社から、上は公の政府機関まで、お昼の時間はお休みの時間帯に入ります。だいたい2時間〜3時間くらいでしょうか。
「お昼寝」を中国社会全体が公式に受け入れていると言えるでしょう。
このお昼寝、中国語では「午睡」と呼びます。
日本語で「お昼寝」と言ってしまうとどこか怠けたようなニュアンスが出てしまいますが、「午睡」というと、昔からある古い言葉のような雰囲気で、これを使うと堂々とお昼寝ができます。
それってスペインの「シエスタ」と一緒じゃん!
と気づいたお昼寝好きのシエスタファンの方がいるかもしれません。
しかし調べてみると、シエスタはそもそも中国南部地域の発祥で、マカオ〜ポルトガル経由でスペインに入って、あちらにも「シエスタ」という習慣が根付き始めた、という説があるようです。
そうすると中国のお昼寝文化は今に始まった習慣ではないようです。中国人は根っからのお昼寝民族なのかもしれません。
しかし、古くから中国文化を大量に受け入れてきた日本にこの習慣が見られないというのはなぜなのでしょうか。
わたしは詳しいことは何も調べていません。
周辺の国々である、モンゴルや東南アジアにもお昼寝の習慣があるのかどうか、比較してみると面白いかもしれません。
いちおう、ベトナム人のルームメイトにも聞いてみましたが、ベトナムにもしっかりお昼寝タイムがあるそうです。ただし一般的に12時から13時半までの休憩で、中国ほど長くはないそうです。
お昼寝の弊害
毎回思うのですが
休み長すぎ。
政府の公的機関なんかもおおむねこれに則って昼休みを設けています。しかし日本よりも昼休みが長いため、なんやらかんやらで何か手続きをしたいときなど、タイミングが合わないととってもめんどくさいことになります。
例えばある場所で、午前中は11時50分に受付終了、午後は3時から受付開始であるとします。
もしも運悪く11時50分に間に合わないと、午後3時までは何もできなくなってしまうのです。
またそのほかにも、
お昼の時間帯に友達と食事をするとき、
「〇〇って午睡するほう? そろそろ寮に帰って休もうか?」
などと聞かれたりします。
いや、ほう?って聞かれてもね。。
わたしは自分が寝たい時に寝ますが。
でもこの場合は、逆に友人の方が「帰ってお昼寝しなきゃ」と間接的に主張していると理解するべきなので、ここでは一旦解散するのが賢明です。
つまり、お昼寝の習慣をしっかり守っている人だと、あまり時間の融通がきかないということがありうるのです。
若い人でも「午睡」する人は結構いて、私も、「あ、その時間帯は昼寝しなきゃだから、もう少し遅めでもいい?」と言われたことがこれまで何回かあります。
お昼寝文化論
中国では学校でも会社でも、お昼休みになるとみんな一旦家に帰るのが一般的です。自宅に帰ってからご飯を食べて、30分ほど眠ります。(北京上海など大都市は帰らないかも)
仕事や学校の途中で一旦帰る。中国人が日本の「お弁当文化」を面白がるゆえんがここにあるのかもしれません。
「日本人はどうして冷え切った飯をうまそうに食べるのか」という点が中国人の興味を引くようですが、そもそも中国ではお弁当の必要がないんですね。それに対して日本人はだいたい丸一日帰宅しませんから、「お弁当文化」が発達するわけです。(中国では外食文化もそれなりに発達しているというのもある)
それから、学校や仕事の途中に一時帰宅するという必要性から、中国では学校や勤務先が自宅のそばにあるということが多いです。むしろ学校や勤務先のそばを選んで自宅を構えている、というほうが正確かもしれません。
もし学生が遠くの学校へ通う場合には、学校の寮を利用します。
中国では多くの学生が中学や高校から寮暮らしを経験します。
日本の感覚では学校まで片道1時間や2時間程度なら平気で自宅通学してしまいますが、中国では自宅から30分圏内でも学校の寮に入る人がいます。
中国の方が、通学に時間がかかることを嫌います。
この、学校へ通うのに寮に入るか入らないかの日中の価値観の違いがとても興味深いです。
もしかすると、通学時間だけではなくて、お昼に一旦帰って昼寝する時間まで計算に含めて考えているのでは? などと思います。