みなさんはおとなりの国の言語である、中国語についてどれくらいご存知でしょうか?
中国語は使用人口13億人以上と言われ、地球上でもっとも話者数の多い言語とされています。
しかし、実際に中国で生活していくうちに、「使用人口13億人の言語」という言い方に対して疑問が湧いてくるようになりました。
なぜかというと、あまり知られていませんが、中国には日本をはるかに超えた、あまりにも多様な言語環境が存在しているからです。
「中国語」とひとことで言っても、いったい何種類あるのだか数えきれないくらいたくさんあるのです。
中国語ってなんぞや
私たちが街を歩いていて、中国人が中国語を喋っているのを聞けば、みなさんは一発でそれが中国語だとわかると思います。私たちには、中国語の感じ、という共通認識がありますね。
大学の第二外国語の授業で中国語を選択したことがあるという人も結構多いはず。同じ漢字を使っているのに、慣れない発音がたくさん出てきて苦戦した人も、たくさんいると思います。
ここでは、そんな中国語について、少し丁寧に解説していきたいと思います。
「中国語」とは、中華人民共和国、(+台湾、香港、マカオ)、シンガポール、マレーシアなどで公用語とされている、漢民族の共通言語のことを指しています。
中国語では、これを「漢語」または「中文」と呼んでいます。シンガポール、マレーシアでは「華語」と呼んでいます。
ここで、彼らが私たちのように「中国語」とは呼ばないところがミソです。
なぜなら、もしも漢語を「中国語」と呼んでしまうと、漢民族の言語である「漢語」が中国という国全体を代表することになってしまうからです。
つまり、
中国人の話す言語がすべて中国語というわけではないのです。
多民族国家チャイナ
それではこちらをご覧ください。
こちらは、出版から30年たった今でも権威とされている『中国语言地图集』という、中国の言語状況について紹介した地図集です。上の画像はその一番初めのページで、「中国言語地図」という地図になります。
地図の中の黄色くぬられている部分が、彼らの言う「漢語」の分布になります(私たちの言う「中国語」)。それ以外の部分は「漢語」以外の言語、つまり、私たちが言う「中国語」とは言語レベルで異なる言語の分布になります。
けっこうな範囲がぬられているのがわかると思います。これが、中国に1億人以上居住している、少数民族の言語です。
ざっと紹介すると、
- 一番上の緑色の部分は、モンゴル語を含むモンゴル語族(他ドンシャン語など)
- 西がわのピンク色の部分は、ウイグル語をはじめとするテュルク語族(他カザフ語など)
- 西南部チベット高原は、チベット語を含むチベット・ビルマ語族(他にモンパ語など)
- 東北部のオレンジのシマシマは、朝鮮族が話す朝鮮語
- 雲南省や広西など南部は非常に複雑になっていますが、苗・瑶語族や壮・侗語族などが混在しています
こうしてみると、中国には漢語以外にもさまざまな言語が存在していることがわかると思います。
以上が、中国の言語=漢語ではないという理由になります。
が、しかし中国語問題はこれだけではありません!
上の地図で黄色くぬられているエリアの漢語を話している人々は、みんながみんな同じ言語を話しているの?というと、それがまた全然違うんです。
方言地獄チャイナ
ここからが本題です。
わたしが一番書きたかった部分でもあります。
「中国の方言」と言ってしまえば、ああ方言か、と日本でいう方言の理解で済ませてしまう方がいるかもしれませんが、中国では、お互いに通じ合わないほどの違いを持った方言がありえないくらい存在しているのです。(漢語に限らず少数民族の言語にも方言が無数に存在している)
どれくらいの違いがあるかというと、言語学の先生いわく、各方言どうしの差は、フランス語とスペイン語の違いよりも大きい、と言います。(どう比べたのかは知らないが)
特に方言がえげつないところでは、山を一つ超えてとなり村に行くと、もう言葉が通じなくなることもあるとか。
この中国の方言分布がいかに複雑怪奇であることか。
こちらをご覧ください。
再び『中国语言地图集』を見てみましょう。
こちらは、先ほど見た漢語が話されているエリアを、さらに10個の大まかな「方言区」に分けた地図になります。(10個ではなく7個や8個に分けるべきだという学者もいる)
見てみると、中国南部の方で特に方言が複雑になっているのがわかると思います。これにはさまざまな原因が考えられますが、一番わかりやすいのは中国南部の地形が急峻で、山が多いということでしょうか。
ざっと紹介していくと、一番広い緑色にぬられたエリアが「官話」と呼ばれる方言区になります。北京市や四川省もこの方言に含まれます。「官話」とは歴代王朝の宮廷で公式に使われた言葉のことで、このエリアの方言には比較的統一性があります。お互いに頑張れば聞き取れないこともない、といったレベルの違いでしょうか。官話方言同士の違いは、主に声調の違いで、独特な抑揚に慣れてしまえばあとはなんとなく聞き取れることがあります。
さて、いったい何がどうなっちゃったのよ、というレベルなのが、中国南部エリアの方言です。たくさん色分けされていますね。
ここのエリアでは、官話方言とは発音の部位が異なったり、語彙が違ったり、文法までが少しずつ違ったりするために、もしも全く勉強したことがなかった場合、まったく交流が成り立ちません。
標準語である「普通話」の声調は4つですが、南部の方言では声調が7つある方言もあれば8つある方言もあります。(広東語は9つ)
そしてさらに絶望的なことに、この9つの方言区をさらに分けると、やはりお互いに聞き取れないレベルの方言が無数に存在しているのです。方言の中にさらに方言があるのです。
この複雑極まる中国語の方言については、絶叫するくらいおもしろい話がたくさんある上に、実は日本語ともすごく関わりが深いので、機会があれば記事にして少しずつ紹介していきたいと思っています。
日本人の中国に対する最大の誤解が「中国ではみんな北京語を話している」。詳しくはこちらの記事をごらんになってください。
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