しぼりたてチャイナ

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パトロール隊「ここはヒョウが出るから野宿しないでね」太行山脈とたわむれ記 2

 

二日目の朝を迎えました。この日は本格的に太行山脈とたわむれます。

 

前日までの行程はこちら。

 

DAY1 新郷市ー輝県ー八里沟风景区入り口

 

前回記事;

【地形フェチ必見】中国グランドキャニオンの絶壁に潜入 太行山脈とたわむれ記 - しぼりたてチャイナ

 

 

 

この日は太行山脈の絶壁を一段一段のぼって行って、どこまで行けるか、というところ。

 

でも、わかりやすい登山道がしっかりと整備されているわけではないみたい。

 

そんなとき、国土地理院の地形図みたいに全国をカバーする地図があれば、山の中を歩くのも安心なのだけれど、

 

中国のお国柄そういうものを期待できるわけもなく、

 

中国では数少ないトレッキング旅行の記録と、これまた中国では頼りないGoogle Mapの地形情報を元にして、

 

この日は一気に40キロくらいの行程を歩くことに決めました。ゴールは山西省がわにある山の上の小さな村。

 

 

簡単に朝食を済ませて、朝の7時くらいに宿を出ます。

 

しばらく行くと景観区のゲートがあるので、ここでチケットを買って入場。朝早いのに結構大型バスなんかも乗りつけていて、それなりに観光客がいる。

 

ここの景観区では、渓谷沿いに遊歩道が整備されていて、水遊びができたり、太行山脈の絶景を楽しめたりできるようになっている。岩壁から流れ落ちる大きな滝なんかもいくつかあるらしい。

 

けれども今回の目当ては景観区ではなくて、景観区の中に隠されたある山道を探しに行きたい。

 

ネット上にトレッカー(中国語で「驴友」)たちが書いたおぼろげな情報を見ながら、山道の入り口を探し回る。

 

ネット上では入山するルートがおよそ3本くらい紹介されていて、滝の裏側の階段から登るルートだとか、あっちの道は最近使われなくなっているだとか、こっちの道はすごく遠回りしなければいけないとか、情報が非常に断片的ではっきりしない。

 

景観区の遊歩道を何度か行ったり来たりしているうちに、どうやらそれらしき作業道路を見つけた。

 

ここかなあ。

 

 

違ってたらまた別の入り口を探してみるとして、試しに探索してみることにする。

 

ごく普通の観光地に隠された、異世界への秘密の入り口を探す。。。なんだか実写版のRPGをやっているみたい。

 

旅行中のこういう過程がとてつもなく楽しい。

 

 

そうだ、これから先は電波もなくなるだろうし、先に今日の宿をとっておいたらどうだろう。

 

百度を開いて目的の村の名前を検索してみると、村にあるいくつかの农家乐(農村のお宿)の電話番号が出てきた。電話番号以外には何も情報が書かれていないので、とりあえず一軒目から順番にかけてみることにする。二軒目でつながって、予約成功。

 

 

舗装されていない砂利の道路をひたすら前進していく。景観区の渓谷とは別の川の支流に入ったらしい。巨石の散乱した川がとなりでザーザーと流れている。

 

もしも道が間違っていたらすぐに行き止まりになるんだろうな、と思っていたけれど、なかなか途切れることがない。もしかしたらこのまま山の上の方までいけるのかも。

 

草藪の茂った細い道を進んでいく。進むにつれて、道の両側にそびえ立つ太行山脈の岩壁が、どんどんと幅をせばめてくる。

 

朝日を浴びた植物たちもここぞとばかりに水分を放出し、6月のよどんだ湿気が渓谷に滞留している。

 

そして渓谷の底から沸き立つ、気だるそうな無数のセミの声。

 

 

そう、セミといえば、

 

中国で聞くセミの声は日本のセミの声と全然違って、全く音楽性がない。

 

 

日本ではツクツクボウシやミンミンゼミ、ヒグラシやクマゼミなど、みんなそれぞれ個性的な歌声を持っているので、たいていの人が鳴き方と名前を一致させられるし、

 

鳴き方が比較的単調なアブラゼミですら、終盤に入ると独特なリフを入れてくる。

 

でも中国では、どのセミがどう鳴いているかとか、ほとんど気にならない。ずーっと「ジー」って鳴いているだけ。日本でいうと、山の中でよく聞くハルゼミの鳴き声に近いタイプ。

  

中国の古詩の中でも、セミについて歌った詩はそれなりにはあるけれど、セミの声そのものについて特別思い入れのあるような詩は、まだ読んだことがない。

 

よく秋の夜の虫の声を鑑賞できるのは日本人だけだとか言われることがあるけれど、日本のセミの鳴き声に特別な哀愁を感じるのも、その独特なメロディによるところがあるのかもしれない。

 

 

太行山脈の写真が見つかりました。

 

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ここの渓谷にずっと分け入って行った。今こうして見てみると、ラスボスの城に続く道みたいで面白い。

 

この崖の上に、徒歩でしかたどりつくことのできない小さな村が隠されているらしい。

 

途中でモンスターに出くわしたりすることはなかったが、その代わりにクジャク数匹に出くわした。

 

とつぜん人間が出現したので、興奮したクジャクは、私めがけて尾羽をフルオープンしてきた。サービス全開だ。

 

 

ここまで途切れることなく続いてきた道はしばらくするとおもむろに川床を離れ、急斜面を一気に登り始めた。

 

さあ、いよいよこれから崖に取り付いて行くんだな。

 

30分ほど急坂を登って行って、標高をかせぐ。振り返ってみると、歩いてきた渓谷が目の前に広がっている。セミや鳥の声に加えて、猿や鹿とおぼしき叫び声も、山脈の絶壁にこだましている。

 

しばらく進んで行くと、一段めの絶壁の下にたどり着いた。

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小さく写っているのが私。セルフタイマーで撮りました。

 

目測で高さ200mくらいはあろうかと言うこの岩壁、

 

この普通の山道はどうやってここを登って行くのだろう。

 

しばらくすると道は突然、崖のすき間に向かってガレ場を登り始めた。

 

急なガレ場を登り詰めたところには、手作り感満載の階段が設置されていた。

 

これはすごい!よくもこんなところに道を作ろうと思ったね!

 

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ここの階段をしばらく登っていくと、一段めの岩壁の頂上部につきました。こんな感じ。

 

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さっきセルフタイマーで写真を撮ったのが、左側の崖がくぼんでいるところの真下。

 

一段一段、崖がはっきり分かれていて、一段めのテーブルの上にはさらに二段めが、二段めの上にはさらに三段目の山が生えている。

 

壮観すぎて、心が震える。

 

ひとまずこれで、一段めはクリアしたことになる。

 

そして一段めのテーブルの上には、やはり地上と同じように二段めの渓谷が続いていました。

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なんだか箱庭の中にいるような不思議な気分。

 

しばらく行くと、とうもろこし畑が出現し始める。

 

とうもろこし畑の間をさらに進んでいくと、小さな村に到着した。

 

家の壁から何まで全部石を積み上げて作った村だった。

 

これが徒歩でしかたどりつくことのできない村、その名も「抱犊村」。

 

「犊」とは仔牛のこと。

 

つまり、牛を連れてくるのにも人間が抱きかかて来なくてはならないくらい、険しい山に囲まれた村だということ。

 

下界からここまで3−4時間くらい歩いてきた。こんな辺鄙なところに、20人ほどの村人が暮らしています。

 

特に産業などないように見えるけれど、実は現在、ここはトレッカー「驴友」たちの基地になっていて、

 

いくつかの石の民家が民宿に使われている。

 

私がついた時はちょうどお昼時で、何グループかのトレッカーもここへ到着したばかり。

 

トレッカーのカラフルな登山装備が目にまぶしい。

 

民宿を覆い尽くすほどいっぱいに吊るされた中国各地のアウトドア団体の旗。みんな遠征に来たら記念に残していくんだろう。

 

湯けむりでけぶる厨房と、中庭に並べたテーブルを忙しそうに往復する村の人たち。きっとこれから豪勢な料理が出されるんだろう。

 

お昼なので私も何か食べたかったのだけれど、どこでどう注文していいのかわからない。

 

しかたなく、人でぎゅうぎゅうの厨房にねじ込んで行って、麺を一碗注文する。

 

麺を待っている間、キンキンに冷えた井戸水で頭を濡らし、水を補給し、足を洗う。素晴らしい6月の太陽が背後からガンガン照っているので、水浸しになるととっても気持ちがいい。

 

石畳の中庭に空いている席を見つけて、他のグループに混じって食事を待つことに。

 

みんな荷物をほどいて晴れやかな顔で楽しそうにおしゃべりしている。長いこと歩いてきたのでしょう、

 

そんな中、お一人様モード全開の私はそそくさと麺を片付けて、抱犊村をあとにする。

 

ここまで半日歩いてきたけれど、目的の村まではもう半日ぶんくらい距離があるので、のんびり休んでいられないのです。

 

 

褐色の岩壁に囲まれた渓谷をずーっと進むこと1時間、

 

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不思議なことに、村でトレッカーのグループに遭遇した以外は、途中で誰にも出くわさない。

 

だからこの景色もこの空間も全部ひとり占め。どうも。最高です。

 

ここまでくると両側の岩壁がどんどんと狭くなってきて、360度すべての方角を絶壁に包囲される。

 

この岩壁のものすごい「圧」にひとりで立ち向かうのもなかなかエネルギーを消費する。こちらもそれなりの「圧」を発し続けないと、押しつぶされてしまいそうになる。

 

そして、どうやら私はここで道を間違えたらしい。

 

 

私は当然のように写真奥の深い渓谷に入って行った。あんまりにも神秘的で手付かずなので、考えることなしに、吸い込まれるように入って行った。

 

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そしてこの谷底を1時間くらい進んで行って、ようやく気がついた。

 

さっきからひたすらに川床を歩いてきたけれど、そういえば「道」をずっと見ていない。単に川沿いを歩いてきただけじゃないか。本当にこっちであってるのか?

 

渓谷はますます狭くなり、日差しはどんどん薄らいでいく。谷底に鬱蒼と茂る原始的な植物に囲まれながら、私は「まあいいや」と思った。

 

野宿できる装備も一応持ってきていたし(エマージェンシーシートと半分に引きちぎったマット)、このまま自然の中に「get back」していくのも悪くはない気がする。

 

そうしているうちに、大きな淵に突き当たって、やっぱり先に進めなくなってしまった。

 

そうら言わんこっちゃない。

 

それでもどうしても引き返したくなかった私は、付近を探索してみた。。すると、川を離れて山に分け入って行くかすかな踏み跡を発見した。

 

試しに登ってみると、かすかな踏み跡はしだいに確かな山道へと変わって行った。

 

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(さっきまでこの下の谷底を歩いていた)

 

一体誰が何のために整備したのかわからないけれど、しっかりと歩きやすい道がついている。

 

まあこのまま進めるようだし、どんどん先へ歩いて行こうじゃないか。

 

 

突然、落石の音が響き渡る。

 

前方からかすかに人の話し声が聞こえる。

 

前に誰か歩いているらしい。

 

 

こんなに山深いところまで人に会わずにやってきたんだから、このまま人に会わずに行きたいなあ。

 

でもあっという間に追いついてしまった。

 

女性2人と男性1人の3人グループだった。

 

私が後ろからやってきたので、すごくびっくりしていた。何でここ歩いてるの?ひとりで来たの?どこから来たの?日本から来たの!?キャー!一緒に写真とってもいい?

 

何じゃそのリアクションは。

 

聞いてみると、山西省晋城市の山岳パトロール隊なのだという。

 

新人ちゃんが入ったので、連れてきたらしい。

 

でも新人ちゃん、すでに体力をかなり消耗してしまっているらしく、ここから先、背負って帰ろうかどうか迷っているところだったそうな。

 

「君もしかして道間違えたんじゃない?ここの道を上がっていっても、あなたの行きたい马武寨には出ないから」

 

ああ、やっぱり道を間違えていたんだ。

 

どうりでやたら歩くと思った。もう午後の3時をすぎているもの。

 

「ここをしばらく上がっていったら農道に出るけど、马武寨までは少し距離があるかも」

 

まあ、多少長く歩くぶんには問題ない。

 

歩き疲れたら野宿すればいいし。

 

そんなことを考えていたら心を読まれたのか、こう刺されてしまった。

 

「そういえば、その辺で野宿したりしないようにね。ここはヒョウが出るから。」

 

 え?ヒョウが出るんですか?

 

 

続く