しぼりたてチャイナ

何かとディープな中国の知られざる魅力を、無限に生しぼりしていくブログです

【地形フェチ必見】中国グランドキャニオンの絶壁に潜入 太行山脈とたわむれ記

 

6月のある日、

 

かねてから行きたいと思っていた太行山脈に行ってみることにした。

 

太行山脈とは、南北400キロに渡って伸びる中国北部の山脈だ。

 

 

山西省くるりと囲む形でそびえ立っている。

 

 

何と言ってもその特徴は、絶壁。

 

400キロに渡って、岩壁が屏風状にずっとそそり立っている。だからあんまり山脈という感じはしないかもしれない。

 

絶壁にはあちこち大渓谷が食い込んでいて、さまざまな奇景を繰り広げている。

 

絶壁にうがった半トンネル型の道路の写真などは結構有名かも。

 

 

当時河北省に住んでいた私はまじかよこんな場所が近くにあったのかよ、と興奮してしまった。

 

地形が大好きな私はとにかくそこに突っ込んでいって山と戯れてみたかった。

 

 

ということで、とりあえず河南省の新郷市という駅まで列車に乗ってやってきました。

 

 

ここから太行山脈までは約40キロ。

 

どうやって行ったものか、

 

事前に明確な情報が得られていたわけではなかったので、バスで行けるところまで行って、そこから歩いていこうと考えていました。行き当たりばったり。

 

6月の蒸し暑い日差しで地面が煮えたぎっているよ。

 

暑いのにビビったのですぐさま帽子を購入。

 

 

地図を見てみると輝県というところまでは路線バスがガンガン出ているので、

 

 

新郷で腹ごしらえをして、輝県までバスで向かうことに。

 

 

バスで30分ちょっと。つきました輝県。

 

 

しかしこの路線バスがどこ行きなのか全然調べていなかった。

 

市街地と思しきところに着いた途端、バスは急カーブして、私の行きたい方向からどんどん離れていく。

 

慌てて次のバス停で飛び降ります。目の前のロータリーには大きな銅像が。

 

 

このときは気にもかけなかったけれど、あとで聞いたところによればこれはかの有名な漢方薬学者、李時珍の銅像なのだと。

 

あらま

 

本草綱目』といえば結構知っている人がいるかもしれない。ちっちゃい頃に読んだ平賀源内の漫画に出てきたのをよく覚えている。

 

でも地元輝県とは直接的な関係があるわけではないらしく、ただここで漢方薬の全国大会が開催されているから建てられただけなのだそうだ。

 

 

 

そんなこんなで私は念入りに準備体操をしたのち、西に向かって歩き始めます。

 

とこまでも続いていく道、どこまでも続いていく土地。

 

 

日本みたいに海で途切れることなく、行こうと思えばポルトガルまで歩いて行けるのだと思うと、

 

なんとも強烈な開放感に襲われる。

 

 

旅行で爆歩きするときの、この感じが好き。

 

 

 

大通り沿いに歩いていて、バスも全然見かけなかったので、私が行きたい場所は多分普通はタクシーかマイカーで行く場所なんだろう。

 

 

歩き始めて1時間、多分10キロくらい歩いたところで、大平原の向こう側に、恐ろしく大きな山影が姿を現し始めた。

 

だだっぴろい華北平原が、ここで太行山脈にブチんと寸断されているのだ。

 

 

平原からほぼ垂直にそそり立っているであろう山脈の姿に、私のハートもそそり立つ。

 

 

そしてこの辺りから黄土と思われる土が散見され始める。

 

シルクロードの向こうから飛んできた黄砂は大抵がこの太行山脈で寸断される。だから太行山脈に囲まれた山西省や、それよりも西側の地域では、地面に厚く黄砂が降り積もっている。

 

 

飛んできた黄砂が、太行山脈を超えて、河南省のここまで降り積もっているんだ。

 

 

 

集中して歩いていると、数キロもある直線だって苦にならない。

 

2リットルくらい買い込んだジュースがみるみるうちに減っていく。

 

 

壁のような太行山脈の山影はどんどん濃くなってくる。

 

日本の地形の常識からしたらありえないくらいとんがっている岩峰とかが見えてきて、ついにやってきた太行山脈、といっそう高まる。

 

 

しかし3時間くらい歩いたところで、どうやらもう1時間も歩いたら日が暮れそうだということに気がつく。

 

まだ10キロ以上の距離があるというのに。

 

 鼻歌のレパートリーもなくなりかけているというのに。

 

そのとき、一台の車が目の前に停車した。

 

「どこまで行くの?乗っていくかい?」

 

なんてラッキーな!

 

ヒッチハイクだよ。

 

でも、

 

せっかくここまで歩いてきたんだしなー。もう3分の2くらいは歩いたでしょう。ここで車に乗るのもちょっともったいないなぁ。と思って断ろうとすると、

 

「私たちあなたが行きたいその場所に住んでいて、いまちょうどそこに帰るところなの。」

 

なるほど

 

「そもそもそこは景区(観光公園)になっていて、入り口にゲートがあるから、あなたひとりで行っても入れないよ。」

 

ほう

 

「それにそこのゲートをくぐってからもまだ結構距離があるし、歩いたらすごい時間かかるよ」

 

あれあれ、どうしようか。

 

 

私は「太行山脈に突っ込んでいく」以外に何もプランを決めていなかったので、こうして何か計画を決めてもらえるとむしろありがたいところもある。

 

川の流れの如く、

 

やって来た流れには乗ってみよう。

 

知らない人にはついていこう。

 

ということで、車に乗せていただくことにした。

 

車には夫婦と1人の娘の、三人家族が乗っていた。

 

「本当にありがとうございます。申し訳ないです。」

 

「いいのいいの」

 

いままでのノロノロ徒歩とは違い、私の身体が順応不良を起こすくらい車はスイスイと進んで、10分かそこらで景区のゲートに着いてしまった。

 

いまや太行山脈は目の前にそびえ立つ絶壁。これは、すごい。

 

その絶壁に渓谷が食い込んでいて、渓谷のちょうど出口のところに景区のゲートが設置してある。

 

後ろを振り返ると、はるかに地平線の霞んだ華北平原が、西日を照らして光っている。

 

こんだけの距離だったらそのまま歩いてきてもよかったかもしれないな。なんて考えていたら、おばちゃん

 

「20元でいいよ」

 

あら、

 

まあ。

 

 

勝手にヒッチハイクだと思っていたのに、

 

見知らぬ人の優しさにに出会えたと思ったのに、

 

いいように考えすぎだった。

 

わたしが勝手にこれはヒッチハイクだと誤解していただけなので、もはやどうのこうの言うすべもなく、素直にお金を渡しました。

 

確かに、中国で「搭顺风车」というと、お金を払う場合もお金を払わない場合も、どちらも言うような気がする。

 

まあ、結果的に体力を大幅に節約できたので、いいとしますか。

 

しかしおばちゃん、またひと言、

 

「私の親戚がこの景区の中で旅館やってるの。さっき電話したから、迎えに来てくれるよ」

 

なんだい!

 

グルじゃないか。

 

お金とっておいて、ただの客引きじゃないか。

 

まんまとやられたぜ。

 

「ここでしばらく待っててね」、おばちゃん一行の車はそう言い残して、スーッと走り去って行った。

 

いや、あんたら家に帰るんじゃなかったのかい!

 

ほんとうにただの客引きだった。

 

しばらくしたらゲートの向こうの山の谷間からおっさんが本当に車でやってきた。そして私を拾ってまた山に引き返していった。

 

車は渓谷の底の道をぐいぐいと登っていく。確かに、ここまで歩いて登るのは、ちょっと無謀だったかもしれない。

 

渓谷は両側にそそり立つ絶壁に囲まれて、太陽の光が届かない。

 

首を上に曲げて思い切り上の方を見上げると、岩壁の上の方に、美しい奇岩や絶壁がちらほらと見える。これこそ、私がテレビや雑誌で見てずっと心に抱いていた太行山脈だ。楽しすぎるよ。

 

20分ほどで旅館についた。川沿いに突き出た、こじんまりとした旅館だ。すぐ向こうに景区のチケット販売所があるらしく、この周辺には何十軒も宿が固まっている。

 

こういう旅館情報も何も見ずにやってきたから、ここでこうしてスムーズに宿に入れたのはよかった。

 

もう2年前の話なので具体的な金額はあまり覚えていないのだが、多分そんなに高くなかったはず。100元ちょっと?

 

フロントのお姉さんがいろいろ日本について聞きたいと言うので、座ってしばらく話す。

 

お姉さんはここの景観区の見どころや、おすすめスポットをいろいろ教えてくれた。

 

私は少し聞いてみた。ここから山に入って行って、山西省まで山越えするルートってない?

 

お姉さんキョトンとしていた。

 

聞いたことないよ、だって。

 

晩ご飯は何食べたい?と聞かれたので、メニューを持ってきてもらって見てみると、どれも観光地価格で変に高いので、一番安い青菜の麺を申し訳なさそうに注文した。

 

じゃあ6時ごろまでそのへん散策しててね。というので、散策に出かける。

 

地形が美しすぎる。

 

細くて深い渓谷なので、一帯は早々に太陽の影に入っている。日中の蒸し暑さは嘘のような涼しさで、夜は旅館の部屋の窓を開けたまま眠ったら気持ちいいだろうな、と思った。

 

 

 

というわけで、明日はこの山の中に入って行きます。崖を登って、登って、一番上まで行ってきます。

 

断片的なネット情報によると、どうやら絶壁の上には、山道でしか外界と繋がっていない集落があるらしい。そういう場所には無性に萌えてしまう。

 

 

次回に続く

 

 

昔の携帯が死んでしまったので、写真は後日アップします。