前回記事:
河の水が地下になだれ込む光景を堪能した私は、転がっていた牛の頭蓋骨をあとにして、干上がった川の川床を進んでいった。
これをずっと進んで行くといったいどこにたどり着いてしまうのか不安になり始めたころ、また水が出現して、人が積み上げた橋に出くわした。人間の匂いのするところへ帰ってこられた。一安心。
河を渡ると、畑を耕す農夫婦に出くわした。ここでいろいろと話を聞くことができた。
ああ、地下河川を見に来たんだね。今はまだ大丈夫だけど、雨季に入ったらこの辺は大変なんだよ。去年はここのトウモロコシ畑まで水が上がってきてね。半分以上腐っちゃって、ひどいことになった。政府も全然面倒見てくれないんだ。今年はマシだといいけど。向こう?向こうは桑畑だよ。老人が家ですることないから、この辺ではみんなカイコ飼ってるんだ。1斤20元だから、外へ出稼ぎに出るのと同じくらい稼げるよ。どっから来たんだい?清明節で、お墓まいりに帰って来たのかい?もうすぐ暗くなるけどどっか泊まるところはあるの?
まだ決めてないんですけど、まあなんとか探してみようと思います。都安から歩ってここまで来たんで、また歩って帰れるかな、と。
今から都安に帰ったら真っ暗になっちゃうよ。もうバスもないし、早く行かなきゃ。気をつけてね。
畑の中を歩いて行って、干上がった川にかかった橋を渡った。すると、奥からまたゴーッと滝のような音が聞こえて来るのに気がついた。下には道もついているので、行ってみることにする。
また地下河川の入り口を見つけてしまった。
先を急ごうと思ったが、車道へ出る道がわからなくなってしまったので、途中で出くわしたおばあさんに道を聞いたら、同じ方向だからついて来るように、と言ってくれた。しかしおばあさんは普通話が全く喋れなかったため、ほとんど会話ができなかった。
日が暮れてしまった。スマホの電池ももうなくなりそうである。
結局、宿泊の当てが見つからなかったので、道端でどこか野宿に良さげな場所を探しながらここまで歩いてきたのだが、条件の良い場所がなかなか見つからないまま、あたりが真っ暗になってしまった。
草の茂みだとか、柔らかそうな地面だとか、車道から見えなそうな場所だとかを探していたのだが、そういう寝るのに最高そうな場所に限ってお墓があるのである。自分が寝たいなー、と思う場所には、決まって先人が眠っているのだ。
風水もバカにしたものではない。よく考えている。さすがにお墓の隣で寝る勇気はないので、引き続き、お墓がない、かつ寝やすそうな場所を探す。
そんな感じで暗闇の中をふらふらと、農道を歩き回っていると、遠くに見えるお墓の周りを、黄色い光の玉が飛び交っているのが見えた。日ごろ霊感の弱い私も、「ついに見えるようになってしまったか!?」と身構えたのだが、よく見たら弱々しく点滅しながら飛んでいくホタルであった。
4月にホタルって季節外れすぎないか?いやいや、これだけ南だと季節とかないのかな?(いまは石垣島と同じくらいの緯度にいる)
「こんなところに寝ていて悪い奴に見つかったら、ぶち殺されて身ぐるみ剥がされるぞ!今すぐどこか違う場所に行ってくれ!」
道端に横たわってうとうとしていたら、ものすごい剣幕で怒鳴られてしまった。この人にぶっ殺されそうな勢いである。
仕方なくまたしばらく歩いてゆくと、国道へ出たので、道路ぎわの砂山の後ろに横たわって目を閉じた。目を閉じる間際、遠くの方でホタルが飛び交っているのがかすかに見えた。