しぼりたてチャイナ

何かとディープな中国の知られざる魅力を、無限に生しぼりしていくブログです

中国最北端の村をめざして 2  寒すぎて列車の窓ガラスが…

 

 

前回の記事はこちら:

中国最北端の村をめざして 1 - 限りなく原汁に近いチャイナ

 

上海駅を出発してから12時間が経過し、天津駅に着くころ、東側の空がかすかに白み始める。

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みんな創意工夫を凝らした体勢で夜を明かしている。

 

上海から天津まではおよそ1200キロの道のりなので、この列車もちょうど半分の地点まで来たことになる。

 

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窓の外に目をやると、数年ぶりに目にする、中国北方の冬景色。

 

ここ何年かは、中国南方の青々と緑の茂った、冬らしくない冬ばかり見てきたので、こういうツルッぱげの山が異常に新鮮に見える。やっぱり冬はこういう冬らしい荒涼とした景色が見たい。

 

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こちらは秦皇岛市昌黎にある「碣石山」と呼ばれる山。

 

日本でも有名な三国時代の曹操がこの山で渤海を眺め、「東臨碣石,以観滄海」という詩を詠んだ(とされる山のうちの1つ。他にも2カ所あるらしい)

 

もちろん誰も気がつかないまま、列車は北へ北へと走ってゆく。

 

そんな北方の冬らしい景色に感動していたら、私の周りのドンベイ人(東北人)も窓の外を眺めて、何やら愚痴をこぼし始めた。

 

「このへんは全然雪がないじゃないか、寒いのかな」

 

「そこの水路が凍ってるよ、でも全然寒そうに見えないな」

 

おれたちのドンベイみたいに雪で真っ白に覆われてないと、冬って感じがしないよなあ」

 

おおそうかい。

 

これからもっと冬らしくなってくるんだね。

 

最高。

 

そしてここでは「おれたちの」という言い方に注目したい。

 

この列車内では「オレたちの」に当たる「咱们东北~」という言葉をしょっちゅう耳にした。

 

やっぱりドンベイ人としての誇りとか、自信とかがあるのだろう。

 

迫りくるふるさとの大地を目の前にして同郷人に囲まれると、「オレたち」「アタシら」ブシが止まらなくなる。

 

 

「料理はオレたちドンベイの味付けが一番うまいよな」

 

中国の北のほうで列車に乗っていると、中国南方の料理をこき下ろすような声が聞こえてくるのも、よくあることである。

 

「料理の味付けが甘ったるいのは、上海人どうかしてるよ」

 

列車内にいるのは、ほとんどが上海から帰郷するドンベイ人ばかりだ。上海での仕事の給料や、家賃の情報などを、お互いに盛んに議論しあっている。

 

「8千元?いまの上海で8千元でやっていけるの?」

 

「食費が〜でしょ、家賃がこの前上がって〜になったでしょ・・・」

 

不思議なことに、中国のドンベイ以外の地域では「咱们」ということにならない。

 

たとえば福建省だったら、知らない福建人に対して「咱们福建人〜」とか絶対に言わないもん。そういう意味では中国南方はびっくりするくらい一体感がないのかもしれない。

 

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やがて窓の外の液体という液体が凍結し始めた。

 

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ここは水分の存在しない世界である。

 

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やがて中国の華北地方と東北地方を分断する山海関に迫ってきた。

 

およそ2千キロ西に離れた、はるか西域から伸びてきた万里の長城が海に落ちこんで消滅する場所である。

 

ここが伝統的な中華世界と、外の遊牧世界との境界線。

 

1644年、明の王朝が滅亡しかけていたときに、将軍の吳三桂が護衛していたこの山海関を開け放ったことで、大量の満州族軍が南になだれ込み、明王朝滅亡の決定的な一打となった、あの場所である。

 

そういうドラマチックな「関」を越えていく。

 

そして「関」を越えたとたんに、つまり遼寧省に入って正式にドンベイに突入したとたんに、地面に白い積雪があらわれはじめた。

 

おお、さらに冬らしくなった。

 

良い。

 

まさにみなさんの言うとおりでございまし。

 

ドンベイの冬こそ冬らしい。

 

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北上するにつれて窓ガラスの結露が凍結しはじめる

そんなこんなで立ったり座ったり、窓の外を眺めたり、食べたり食べなかったりを繰り返しているうちに、乗車からまる24時間で、ようやくハルビン西駅に到着した。

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地面がありえないくらいバキバキに凍結している箇所があるので、こうして少しずつはがし取るみたい。

 

バス停を探して歩いていると、さっきまで列車内の暖房でポカポカになっていた身体が、情け容赦のない冷酷な空気にさらされた。

 

一瞬、これはやばい、と思った。寒さのレベルが全然違う、と少し怖くなった。

 

このときの気温がマイナス18度くらい。しかしこれから目指す漠河はマイナス40度の世界なので、こんなところでやられてしまうわけにはいかない。

 

ものすごい寒さに一瞬たじろいだあと、すぐに順応してしまった。

 

空気が極度に乾燥しているからだろうか。福建省で着ている冬の上着を何枚か重ね着して、手袋をつけて帽子をかぶれば、どうにかなる寒さだった。

 

 

 

結局、寒さはそうでもなかったが、大気汚染がもっとひどかった。

 

実はハルビン市は、大気汚染の全国ランキングでも上位に入る常連さん都市のうちの1つ。私がやってきたこの日は、あいにく今シーズン最高の汚染度を叩き出した1日で、全国ランキングも堂々のトップを記録していた。

 

いま、中国で一番空気の汚い場所にいると思うと、なんだかプレミアムな感じがしないでもない。

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河北省や河南省、山東省などの名だたるヘヴィ級大気汚染都市をねじ伏せて見事ハルビンがチャンピオンに

 

数年ぶりにいただく大気汚染の香りを味わいながら、路線バスに乗り込む。ハルビン西駅からハルビン駅まで、20分ほどの移動。

 

そう、旅はここで終わりではない。

 

ハルビン駅から、また長距離列車に乗りかえなくてはいけない。

 

上海から天津まで1200キロ、天津からハルビンまでまた1200キロ。

 

これだけ長い距離を移動してくると、はるかな北国までやってきたような気がするけれど、ここから漠河まではさらに1200キロ北上しなくてはいけない。

 

この、遠くに行く感じがたまらない。

 

続く