中国へ留学がしたい、と考えている人がよく悩む、定番の問題があります。
「自分の行きたい都市で話されている中国語に、なまりがあったらどうしよう」
普通語になまりがある場所では、正しい中国語の発音が身につかないかもしれない。。できるなら、地元の人と、習いたての中国語を使って交流をしたい。
じゃあ、ちょっと学費は高いけど、うん、一番発音がきれいそうな、北京の学校に行くことにしよう。
しかし実際に学校生活を始めてみると、気付くことになります。キャンパスの中で話す分には問題ないのに、一歩北京の街中へ出て行くと…
あれ?全然聞き取れない。
どうしてなんでしょうか?
北京の下町言葉「北京話」
現在、中国の学校教育で使われている中国語の標準語は「普通話」と呼ばれていて、1955年に「北京語の発音を元にして」定められた半人工言語のことを指します。
今日私たちが呼ぶ中国語とは、一般的にこの「普通話」のことを指しています。
日本ではよく「中国ではみんな北京語を話している」という風に誤解されていますが、これは完全にデマです。
北京語は中国では「北京話」と呼ばれていて、れっきとした中国語の方言の一つです。
日本ではこのふたつの言葉がよく混同されてしまいます。
中国でいう「北京話」とは北京の下町のチャキチャキ庶民が話す言葉です。独特の調子や言い回しがあって、非常に耳に心地よい、味わいにあふれた言葉です。発音や言い回し、しゃべり方の調子などは、外からきた人にはマネしがたい。
それに対して普通話は比較的フォーマルな言葉と言えるかもしれません。もしもあなたが普通話を極めに極めるとしたら、それはテレビのアナウンサーの話し言葉にどんどん近づいていくかもしれません。それでは少し味気ないですよね。
北京語礼賛
こちらは、Youtube で見つけた北京語の動画です。
全国方言大比拼,北京人的儿化音亮了,快来找找你的老乡吧! - YouTube
道行く人々に、自分の方言について聞いてまわった街頭インタビューです。これを見ると、中国人はほとんどの人が自分の方言と普通話のバイリンガルであることがわかると思います。
動画の一番最後に二人の北京人が出てきますが、他の地域の人との話し方の違いがわかるでしょうか。
北京語で特徴的なのが、音の最後で舌を巻き上げる「er化音」と呼ばれる発音の多用です。たまに猫のようにグルグルと聞こえてくるかと思います。喉の奥の方で声を出している感じです。
それから、音が普通話に比べてはっきりしていないことも特徴です。たとえば、普通話で三つに区切って発音する単語などをひと吐きに発音してしまったり、センテンスの語尾がフッと消えてしまうこともあります。
どこか大げさに上げ下げするような独特の抑揚は、少し大阪弁を思い起こさせるかもしれません。実際、北京生まれ北京育ちの人々は総じて話好きでして、一旦口を開くと止まらないというひとが多いです。しかもめちゃくちゃ話がうまい。聞かせる。
前に一度、北京の庶民的なお店で食事をしていた時のこと、お店の店員のおばちゃんが私のとなりに腰掛けてきて、「仕事上がりだ仕事上がりだ」と言って私におもむろに話しかけてきたことがありました。北京のひとは最近全然人情味がなくなったとか、自分の知り合いがどうしたこうしたなどと、合いの手を入れる隙もないまま20分くらい一人で、朗々と「語られ」てしまいました。
でも、これが不思議と聞かせるんですよ。内容がおもしろいというよりも、語りの技術なんでしょうか?感情豊かな語り口調に、思わず聞き惚れてしまうんです。
北京出身の有名な映画監督がこんなことを話しています。「よそから北京空港に帰ってきたら、まずはタクシーの運ちゃんの北京話を聞くのが楽しみで仕方ない」。北京ッ子なら、こちらから少し話を促すだけで、勝手にとうとうと語り始めてくれるのです。
中国の伝統漫才である「相声」は北京話の調子で言葉を掛け合いますが、ネタの内容よりも何よりも絶妙なのは、やっぱり北京話の話の抑揚や調子などなのではないでしょうか。
中国語を学びたての頃には気がつかないのですが、だんだんとこの「普通話」と「北京話」の明らかな違いがわかってくる。そうすると、すごく面白いです。
村上春樹の小説が日本語で味わえるのと同じように、中国語を勉強したら北京語の味がわかるようになった。これも中国語を勉強して良かったと思うことのひとつです。