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目を開けると空が白くなり始めていた。空気がひんやりと冷たい。
誰か人に見つかる前に行動を開始しようと、寝ていた砂山を後にして歩き始める。
前日の夜、スマホの電池がなくなってしまったので、どこかで充電がしたいと思った。向こうの方に村が見えたので、村へ入って行って、どこかにコンセントがないか探すことにする。
ちょうど建設のおっちゃん達が仕事場に到着したところだったので、「このコンセントちょっと使わせてもらってもいいですか?」と聞いたら、快諾してくれた。
さて、昨晩夜を明かした場所から巨大地下河川の出口まではほんの少しの距離である。スマホがある程度充電できたので、早速、河の出口を見に行くことにする。
看板を右折して川べりの崖を降りていくと、ついに大河、紅水河に出た。
はるか雲南省の昆明付近に端を発し、ここまではるばる流れてきた水たちである。ここからはさらに広州まで下って珠江と名前を変え、香港のとなりで海へ流れ出るのである。実にその距離2100キロメートル。地図を見ると、ちょうどこの辺りがその長い旅路の中間点にあたりそうである。
そんな大河の割には川幅狭くない?
安心してください。地元の釣りブログを見たら、この辺りの水深は50メートルあると書いてありました。やっぱり日本の河川とは規格が全然違うみたいです。
振り返ると、ここまでずっと追いかけてきた地下河川の出口が見えた。角度が悪くて中までは見えないが、そこに出口があるのは確認できる。
洞窟から出てくる水の流れははっきりとは確認できない。おそらく洞窟のかなり手前から紅水河と同じ水位にまで流れ落ちているのだろう。
大化瑶族自治県に到着した。都安瑶族自治県と同じく、中規模の都市である。街を少し散策したあと、また何に惹かれてかわからないが、紅水河の川べりにやってきてしまった。
たゆたう河を眺めながら、この先どうするか悩んでしまう。今日中に100キロほど南にある南寧へ行って、明日朝のフライトに間に合うようにできればいいのだが、今はまだ朝10時くらいなのである。どうやらカルスト地帯をもうひと堪能くらいできそうである。
ここまで地下河川は十分に堪能したけれども、ポコポコ山は外から眺めるだけで実際に体感したとは言えないかも知れない。
ちょうど大化瑶族自治県の近くに「七百弄」という有名なポコポコ地帯がある。雑誌の紹介によると、「七百弄」の辺りの村人は、ポコポコ山とポコポコ山の間にある落差数百メートルの窪地という、人間が生きるのには劣悪な環境で農業を営んでいるという。
どのくらい劣悪なのかというと、例えば車道に出るためには数百メートルの落差を何度も登りおりしなければならないとか、地表が石まみれなので畑に使える土地が非常に限られているとか、何よりも、そもそも水がぜんぶ地下に流出してしまうので、川も池もなくて、水資源を雨に頼るしかないなど、日常からサバイバルしている人たちばかりなのだという。
衛星写真を見てみると、未だに車道の通っていない村もこの辺りにはたくさんあるようである。つまり、徒歩でしか到達することのできない村が、ポコポコ山の中にはたくさん隠されているということである。
何が私を突き動かすのか、私自身でもうまく説明がつかないのだが、車道が通っていない村にはどうしてもグッときてしまう。
せっかくここまで来たのだし、最後のだめ押しでポコポコ山の中にある村をひとつ訪れてみよう。
ということで、ちょうどやってきたバスを止めて飛び乗ってみた。行き先ならどこでもいいのである。どの方向へ進んでも、ポコポコ地帯には変わりないのだから。
続く