2ヶ月以上にわたり、週末ごとに行われている香港の「逃亡犯条例」に反対するデモ。
香港国際空港の閉鎖や各業界でのストライキなど、今回のデモは収束に向かうどころかますます勢いを増し、香港の経済界や各国の外交戦略にまでその影響が波及し始めています。
また、今後中国が香港に対してどのような対応をとるのかについても、国際社会が注目しています。
そんな中、国家による情報のコントロールがたびたび話題になる中国。
実は今回の香港のニュースは、中国の国家テレビ局「CCTV」でも、毎日のように報道されているのです。
ほぼ毎日のようにです。しかも大きく枠をとって。
今回はそんな CCTV そのニュース番組、「新聞聯播」が毎日具体的にどんな報道をしているのかについて、160万人の参加者を集めたとされる先週末8月18日分と、その翌日8月19日分のニュースを中心に、その報道内容をご紹介したいと思います。
8月18日(日曜日、デモ当日)
こちらが、デモのあった当日のニュース内容一覧です。
はじめに習近平など国家中央部のニュースがいくつか並んだあとに続いて、なんと香港関連のニュースが7項目も連続で報道されています。
上から順に見ていくと、1つ目のニュースは、
・香港社会の各界が声を揃えて暴動に反対 社会秩序の回復を呼びかける
です。
このニュースの冒頭では以下のように報道されています。
「17日に行われた〈反暴動、救香港大集会〉で、香港の多くの市民が、暴力反対、平和と安定を呼びかける、主流派の声を発しました」
続けて、映像がスタジオから、「47,6万人が雨も厭わずに参加した」とされる大集会の現場へと移ります。
国家斉唱とともに始まった集会。
「人々は現場で、〈我愛中国、我愛香港、警察の厳格な法の執行を支持する〉などのスローガンを叫び、行政長官、警察に対する支持を表明しました」
そして、人々がスローガンを叫ぶ様子が流されます。
そのあとは、さまざまな年代の参加者のインタビューの映像です。「暴力に反対」や、「2ヶ月間も乱れている香港にもう我慢がならない」、などとインタビューに答えています。
次に、現場のステージの上で、「香港在住の外国人」が英語で発言する様子が流されます。彼曰く、「香港で生活して40年になるが、こんな状況は見たことがない。中国を怖がる必要は何もない、何万人もの香港人、欧米人が中国内地で幸せに暮らしているではないか」などと熱く語っています。
「また現場では、教育業界、法律業界、文芸界、商工業界、タクシー業界などの代表が発言をし、暴力を非難し、香港を救うことを呼びかけた」そうです。
「空港で70歳の老人が襲われた。わたしも今年70歳になるから感慨深い。この70年間こんな状況は見たことがない」と広東語でインタビューに答える人も。
「今日これだけの人が集まったということは、香港市民がもう耐えられなくなった、このことを十分に説明している」・・と、インタビュー映像が続きます。
などなどなど・・・
こういう報道を見て、みなさんはどう考えるでしょうか。
うーん。確かに、こういう香港市民の声もあることにはあるのでしょう。
しかし、もしもこのニュースを見て情報を得ようとする中国人の立場から考えてみると、私たちが普段から接している香港のニュースとは印象が大きく違ってきますね。
この日の、その他6つの香港関連のニュース項目は以下の通りです
・香港法律業界の人物が空港での暴力事件を強烈に非難
・香港教育界の人物が「利用されてはならない」と青年に警告
・香港の茶餐廳の女性店主、「警察支持200%後悔なし」
・内地の青年「香港の暴乱制止を支持、社会の安定繁栄を保護せよ」
・海外の華人留学生暴力非難の声をあげる 愛国愛香港 心の声を表明
・CCTV速評 暴乱制御という主流派民意に背くことはできない
わたしはこの日、学食でニュースを見ていて、「もうそろそろ次のニュースかな、おお、まだ香港やるのか」と、いつまでも終わらない香港のニュースに驚いたものです。
しかし、18日のニュースでは、この日起きた大規模な反対デモについては一切報道されませんでした。
それでは、翌日のニュースを見てみましょう。
8月19日(月曜日、デモ翌日)
こちらがデモの翌日、19日のニュース内容一覧です。
はじめはやはり習近平関連のニュースから始まります。
この日もしっかり香港関連のニュースがありますが、だいぶ後ろの方にまわされています。
4つのニュース項目をそれぞれ見てみると、
・香港警察隊:職責を果たし 香港の法治を守る
・香港の各業界が暴乱制御、経済発展を呼びかける
・多くの業界に影響 復旧が待たれる香港市民の経済
・各国の人物 香港空港の暴力事件を非難
ひとつめのニュースは、
「香港警察の3人の警官が CCTV のインタビューに、デモ参加者の暴力行為に対して、警察は前代未聞のプレッシャーと向き合っている、と答えました。しかしこれは彼らに、この都市を守ること、社会の秩序を維持することは、替わることのできない大きな使命である、ということをわからせてくれました」
と始まります。そして、三人の警官のとてもフランクな、しかし悲壮感をなんとか隠そうとするようなインタビューが流されます。
4つめのニュースを見てみましょう。各国の人物が非難した、とされていますが、登場したのは、シンガポール隆道研究所の総裁、インドの記者・作家、インドネシア教育部の部員、フィリピンのBRICs戦略研究所の創立者、韓国ソウルの一般市民の計5人でした。
「ああいった暴力は許されるべきではない」とか、「香港でのビジネスチャンスが大きく損なわれている」など、それぞれがおおむね同じようなことをインタビューで話していました。
まとめ
中国国内では毎日こんな調子で報道がなされています。
時間と根気の関係で、全てを紹介することができず、わたしが任意で選んだ内容だけを紹介しているので、多少の偏りがあるかもしれません。
しかし少なくとも、街へ出てデモに参加する大勢の人々の映像や、どれくらいの人数が参加したか、またデモ隊の主張する内容などについては一切触れられていませんでした。
中国大陸でもテレビを見て、「香港で暴動が起きている、香港がピンチだ」というのは知ることができるのですが、こういった報道ではデモの実態についてはわからずじまいですね。
私たちが日本でニュースを見る際にも、メディア側が任意で報道しないことってたくさんあると思います。もしそうであったとしても、報道しないだけであって、それが決してウソの報道をしているとは言い切れないところが難しいのです。
そして報道されていないことについては、視聴者側はそもそも見えてすらいないために、想像が及ぶことすらありません。
残念ながら、大陸の民意はほとんどが香港に味方していないと言っていいでしょう。「逃亡犯条例」に反対することが、どれほど理にかなっていないか、というようなことを説明する記事が、ネット上で広くシェアされていたりしますから。中国には中国側の立場と理論があり、それが広く市民の間にも普及しているのです。
しかし一部ですが、 わたしの身の回りにも香港を応援している人もいることにはいます。