事態が日に日に悪化していく新型コロナウイルスのまん延。
わたしは21日に上海から帰国してしまいましたが、スマホを片手にパソコンの前にどんと構えていると、中国国内の動きがいろいろなメディアを通してリアルタイムで伝わってくるので、すごい時代だなあと感じています。
そんななか、中国全土で感染症が拡大するにつれて、中国の家庭内ではある問題が浮上してきているようです。
その問題が、こちら。
感染症対策や募金や寄付に走り回る若者と、そもそもコロナウイルスに関心を示さないお父さんお母さん世代との衝突。
こうひとことで書いてしまうと、ちょっとわかりにくいかもしれないですね。
わかりやすく言うと、かぜだの熱中症だの普段から口を酸っぱくして子供に健康上のあれこれを言ってきたお父さんお母さん以上の世代が、この非常事態になってまさかのどこ吹く風。
反対に、若者世代はインターネットで瞬時に情報を得ることができるため、事態の重さがよくわかる。
そして中年以上の、事の重大さがまだわかっていない年齢層に「お母さん、買い物に行くんだったらお願いだからマスクをつけて」とは言うものの、バカにされてまったく聞いてもらえないという、なんとも悲劇的な状況が発生しているというのです。
なんだ、そんなことか。
とは思わないでください。
中国の良質な質問サイトである「知乎」では、「どう説得したら両親や家族に新型コロナウイルスを重視してもらえるか?」という質問に対して、現在までに2501件の回答が寄せられ、1200万件の閲覧数を叩き出しています。
この問題が中国の若者の間でどれだけ重大視されているのかが、よくわかると思います。
ネット上にあふれる若者の苦悩の声
誰も予想だにしなかったことが、起こっているのです。
あの、あれやこれやと胡散臭い健康法をウィーチャットでシェアしてくる中年層が、今回の新型ウイルスの大流行に限って、無関心だと?
ウェイボーや知乎などには、若者の切実な訴えがたくさん投稿されています。それでは、彼ら親子のあいだで実際にどういう会話が交わされているのか見てみましょう。
たとえば こちら
「お父さん、外に行くならマスクつけなきゃダメでしょ!」
すると、
「いや慣れないから、それに面倒だろ。03年のSARSのときもマスクつけなかったが感染しなかったぞ」
いやいやいや・・・。
「おばちゃん、市場に行くならマスクつけなきゃダメでしょ!」
「ちょっと野菜買いに行くだけやろ、どっか行くわけでもないし、そんな大げさな」
・・・おい。
ネット上にこういう体験談がたくさん上がっています。
ほかにも、
「マスクを着けてお母さんと外に出かけたら、外すように言われた」
「どうせ今回の肺炎だって大したことないのよ、と言われた」
「大丈夫だよ、この市場ではみんな着けてないんだから」
「どうせインフルエンザの一種みたいなもんでしょう。そんなにいろんなこと考えちゃうなんて、まだ若いね」
「感染したとしても、今の中国の医療レベルで治せないとでも?」
「一日中スマホばっかり見てあれ買ったりこれ買ったり!どうせこれもマスク会社の商売戦略なんだから。毎日そんなヒマそうにして、叔父さんの手伝いで市場に果物でも買いに行ってくればいいのに。新年で忙しいのにもう・・・っておばあちゃんに言われた」
「うちのお母さん、咳を治すための飴も買ったし、白内障を治せる目薬も買ったし、ビワの種をはちみつで漬けたものが気管支炎に効くと信じているくらいなのに、わたしは市場に行くお母さんにマスクを着けさせることすらできない」
「ここ何日かずっと新型コロナウイルスについて知識を伝えているのに、結局、大丈夫でしょう、って言われた。反応がオーバーすぎるって。
「もう、あきらめた」
「いとこが武漢で結婚式をあげるという友人の両親が、絶対に武漢に行くと言って聞かない。その友人は柔らかく説得してみたり激怒してみたりしたけど全く効果がなくて、出発前に母の手にマスクを押し込むので精一杯だった。そのマスクですら『いらないよ、そんなオーバーな、死んだら運が悪かったねでいいでしょう』それを聞いた友人はあやうく脳梗塞を起こしかけた。普段はコーラすら飲ませてくれない、夜更かししたら罵られる、ウィーチャットでデマ情報は誰よりも早く共有してくる、長生きするために水筒には必ずクコの実を入れている両親が、肺炎ウイルスのときに限って、遠路はるばる、危険を冒してまで結婚式に参加、それで『死んだら運が悪かったね』」
「大丈夫、SARSだってこうやって乗り越えてきたんだから、だって」
「今回の病気は死に至ることもあるんだから、と言ったら、目を見開いて『この新年のお祝いどきに、叩かれたいの?そんな不吉なことを言って』」
「マスクを着けずにあちこち歩き回り、各家に新年の挨拶に回り、親戚の宴会に参加し、人であふれるスーパーで年貨を買い、、それでも私たちは注意喚起することすらできない」
おばちゃんが言うには、今回もお医者さんがみんなの恐怖をあおっているだけだと。それでお金が稼げるでしょう、 だって。
もう無数にあります。
いかがでしょうか。もしもこういうお父さんお母さんがいたとしたら、私は全く勝てる気がしません。
中国の中年層はいつの間にこんなに達観するようになってしまったのでしょうか?
いったいどうして中国のお父さんお母さん世代は新型コロナウイルスにこんなにも無関心なのか?
それでは、傾向と対策を見てみましょう。
中年世代を説得するために!〜傾向と対策 〜
いつもは健康に口うるさいお父さんお母さん世代が、まさか今回に限ってこんなにも冷静沈着とは。この不可思議な現象について、ネット上ではさまざまな分析と対策が議論されています。
原因
まずは原因の分析から。
1、客観的な情報が多すぎる
今回政府が毎日発表している情報は冷静で客観的な情報が多いですから、 中年層にとってはあまり熱が伝わってこないのかもしれません。
2、親戚やご近所さんなどがまだ騒ぎ始めていない
普段からネット情報に接しているとはいうものの、やはり親戚やご近所さんとの頻繁な交流で主に世界観が構成されている中年層ですから、村の誰も騒いでいないのにうちだけ騒ぐというのは荒唐無稽なのでしょう。
3、身近な例がないと、危険がわからない
全人類共通のバイアスですね。
4、子供が注意しても相手にしてもらえない。発言権がないとみなされてしまう
ものごとの決定権は経験の豊富な年長者にあるとみんな思っていますから、普段スマホばっかりいじっている若者が突然口を挟んできても、軽くあしらわれてしまうんですね。
どうでしょう。中国社会の様相が少し見えてくるでしょうか?
対策
それでは、どうしたら彼ら中年層に新型ウイルスへの注意を促せるのか?
冒頭であげた質問サイト「知乎」の回答を見てみると、工夫を凝らしたおもしろい対策方法がたくさん紹介されています。
1、ある人は、呼吸器病学者である鐘南山医師の動画をたくさん見せればいい、と提起しています。2003年のSARSの時にも感染拡大予防のリーダーに立った鐘医師ならみんなよく知っているし、今回も先頭に立って情報発信をしているので、信頼が置かれているから。
2、ある武漢の人は、直接両親を説得するのではなくて、まずは両親の親戚や友人を探して今回の新型ウイルスについて話して見てはどうだろうかとすすめます。というのも、自分の子供から言われてもあまり相手にしないけれど、同年代の人の言うことは非常によく信用するからだそうです。
3、ほかには、扇動的なネット記事を見つけてきて家族のチャットグループに送りまくる、とか。
4、ある人は詐欺広告に学んで、事実をできるだけ誇張して書いた恐ろしい文章を書いて送りつけるとか。
5、ある人は「今マスクを買うとポイントがつくらしい」と母親に伝えたら効果てきめんだったとか。
6、またある人は、「口罩」(マスク)の「罩」の字が「福」の字と同じ13画で、さらに「罩」は「福を招く」の「招」の字と同じ発音だから、新年にマスクをつけると福を呼び寄せるよ!という理屈をひねり出したり。
7、またある人はわざと薄着でベランダに出て風邪を引いて、「さっき市場を歩き回ってきた」と嘘をついたらようやく親戚全体が動揺し始めた、とか。
どうにかして家族を守らなくてはいけない、という若者の使命感が伝わってきますね。
激動の時代を生き抜いてきた、自信に満ちあふれた中国の中年層ですから、 ちょっとやそっとでは動じないみたいです。
24日の年越しの夜に放送された大型番組「春晚」では、武漢の新型コロナウイルスについて大々的に取り上げられました。これも、中年以上の層に注意喚起をするという意味では非常に必要のある措置だったということです。
ーーー1月31日追記ーーー
山地の方に住んでいる友人などに聞いてみたところ、確かに新型ウイルスが報道され始めた頃は誰も気にかけちゃいなかったけれど、ここ数日で一気に村人のあいだに警戒心が広まり始めて、マスクをつけること、なるべく外に出ないことなどのやるべき予防をみんながやり始めたそうです。
どうやら数日間の情報の時差があっただけのようですね。
この数日間の時差が命取りにならなかったことをお祈りしています。