10月に入り、24節気の「寒露」を過ぎる頃、海洋からはるかに遠いモンゴル高原の大気は急激に冷やされ、数週間おきに南下を繰り返します。まるで打ち付ける波のように中国大陸を洗い、夏の湿った空気を南に押し返し、大陸は急速に気温を落としていきます。
ちょうどこの頃、天気予報で大気汚染の予報が出始めます。
韓国や九州にも飛来し、現地でも大きく問題になっている中国の大気汚染ですが、中国国内ではまったくその比ではありません。想像を絶していると言ってもいいでしょう。
冬場に中国を訪れる方などにとっては、大気汚染は非常に気になるポイントだと思います。
実は、中国の全ての地域が大気汚染の被害にあっているわけではありません。今回は汚染地域の分布も含めて、大気汚染の実態について見ていきましょう。
華北地域が「重災区」
こちらは2016年12月19日の大気汚染予報マップです。色の濃い場所ほど大気汚染がひどくなっています。
私はこのときちょうど河北省(色が一番濃い地域)に留学していたので、各サイトで毎日のように汚染状況をチェックしていました。この日はこのシーズン中で最も汚染が激しく、また分布も一番広かった1日と言えるでしょう。
さて、分布を詳しく見てみると、 汚染が一番激しいのが河北省の南部と、河南省の北部、山東省の一部となっております。この一番色の濃い六級は「特別な必要がない限り、できるだけ室外へ出ないように」というレベルです。
その他の地域だと、東北3省の平野部、山東省から江蘇省北部と安徽省北部と湖北省北部、これらの地域はそのまま「華北平原」と重なります。
ほかには山西省、西安のある陝西省の関中盆地、黄河流域の大都市、蘭州から西寧、銀川、フフホトも赤くなっています。
カシュガルのあるタリム盆地西部でも少し。四川盆地でも少し色が付いています。
大気汚染シーズンはだいたい10月頃から始まり、翌年の3月くらいまで続きます。比較的汚染の少ない日であっても、汚染が発生する場所というのはほとんど変わりません。その中でも特に、11月から2月にかけての華北地域が最も汚染のひどいところであると言えるでしょう。
逆に中国の南部や西部の大部分では大気汚染はほとんど問題にならない程度です。普段の日本とあまり変わらないレベルです。
大気汚染の発生する地形
さて、以上に挙げた、地図上で色の付いている地域にはある1つの共通点があります。
それはどこにおいても、汚染地域が平原、もしくは盆地に限られている、ということです。
こちらは、特に汚染のひどい華北地域の12月18日の衛星写真です。雲のような濃い白色が霧、白くけぶっているのが大気汚染です。
大気汚染がちょうど雲海のように華北平原を覆っているのがわかると思います。しかし標高差が1000m以上ある北側の燕山山脈や、西側の太行山脈よりも外の高原では汚染が見られません。
大気汚染が平野部や盆地に低く沈殿しているのがよくわかると思います。
大気汚染の正体
大気汚染の正体とは一体なんなのか。
一言で言ってしまえば、これは「煙」です。
河北省一帯にはガラスやゴムなどの重工業の工場が多く分布しています。これらの工場が出す煤煙に加えて、農村の家庭で暖房用に燃やされる石炭も汚染の原因と言えるでしょう。
床暖房などが完備されている北海道の冬がどこよりも暖かいというのと同じ原理で、中国北部のほとんどの都市部では暖房システムが街じゅうに張り巡らされていて、氷点下の冬場も室内では半袖半ズボンで過ごすことができます。
しかし一旦都市部を離れて暖房システム供給外の郊外や農村部へ行くと、今でも多くの人々がレンガ造りの家で石炭の塊を燃やして暖をとっているのを見かけることができます。そして家の煙突からは黒煙がもうもうと吹き上がっているのです。
中国の大気汚染の匂いはまさにあの黒煙の匂いなのです。私は今でも石炭を燃やす匂いを嗅ぐと大気汚染を思い出してなんだか懐かしくなってしまうほどです。
こうして吐き出された煙が、大空に漂って消えてくれればいいのですが、そうは問屋が卸しません。
ちなみにこの大気汚染、中国語では「雾霾」と呼ばれています。雾は霧のこと、霾は細かいチリなどで煙った状態のことを言います。なぜこの2文字がセットになっているかというと、この2つが往々にしてほぼ同時に発生するからです。
冒頭でお伝えした通り、中国大陸では数週間おきに寒波が南下してきます。この寒波と寒波の間の、大気が比較的安定したとき、つまり風が全く吹かなくなったときに汚染された空気が平野や盆地にたまり始めます。
ここで夜中気温が下がったときなどに霧が発生すると、上空に舞い上がった煙が霧の粒とくっついて地表近くまで下がってきます。
中国で「雾霾」の出るとき、しとしと湿った感じがするのはこのためです。
そして 一度「雾霾」が発生すると、次に風が吹いてくるまで持続するのが一般的です。
北京は意外と大丈夫
さて、はじめの地図を見てみると、首都北京も大気汚染の最も激しい地域に位置しているのがわかります。
近年の北京は政府の政策によって大気汚染は改善されつつある、というニュースを見たことがある方もいると思います。実際はどうなんでしょうか。
ここでは、2016年と2018年の大気汚染の数値を比べてみましょう。
一番右側の数値がAQI (Air Quality Index) と呼ばれる数値です。PM2.5やPM10など、6項目の基準をもとに算出されます。
見てみると、2016年の北京では数日おきに大気汚染が発生しているのがわかります。良くなったり、悪くなったりを繰り返しています。悪い日では400を超えています。
ちなみに数字の感覚ですが、東京では普段50以下、空気のちょっと悪いときに100を少し超えるくらいです。150近くなると空気が少し白っぽく霞み、少し匂いがして、多くの人が汚染に気がつくでしょう。300近くなると敏感な人は一歩も外へ出たくなくなります。空気が白く霞み、晴れているのか曇っているのかわからなくなります。400を超えると濃霧のような状態で、車を運転するのが危険になります。
次に2018年12月の北京の大気汚染を見てみましょう。
2年前の2016年に比べると明らかに良くなっているのがわかると思います。たまに100を超えてしまうようですが、それ以外は50前後ですので、澄み切った青い空が見られたはずです。
ここ数年で北京郊外の汚染物質を撒き散らす工場を次々と閉鎖したなどと報道されていますが、どうやらかなり効果があったようです。
それでは北京をぐるりと取り囲む工業地域、河北省では変化があったのでしょうか。
北京から高速鉄道で1時間ほどの距離にある、河北省の省会都市、中国一大気汚染が深刻であると言われている石家荘の数値を見てみましょう。
まずは2016年12月の数値です。
日頃から平気で400を超えているのがわかります。100を割った日が1日しかありません。しかもここに出ている数字は1日の数値の平均なので、夜間などは500を超え、日によっては1000に達している日もあるほどです。ここまで数値が高いと、人間が生活するのには過酷極まりない環境であると言えるでしょう。(幸い中国北部は暖房システムのおかげで室内でぬくぬくしていられる)
次に2018年の数値です。
相変わらず汚染されているにはされていますが、こちらも明らかに良くなっていますね。
高度経済成長期には日本も経験したことのある大気汚染。中国でも1日も早くいい空気が帰ってくるといいですね。
大気汚染関連データのリンク
中国中央气象台の大気汚染予報マップ
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全国295都市の毎日の大気汚染ランキングが見られるサイト
全国城市空气质量指数排名_pm2.5实时查询监测排名_天气网
各都市の過去の天気と大気汚染の数値が見られるサイト
北京历史天气查询_历史天气预报查询_天气查询_2345天气预报
世界各地の大気汚染マップが見られるサイト(大気汚染がひどいのが中国だけではないことがわかる)